天皇陛下がカナダ、ハワイに行きますね。一部報じられていますが、今回、ちょっと「おやっ」と思ったのが、カナダに行くことです。カナダはイギリス連邦に属しているため、偏に形式上の問題ではありますが、国家元首はイギリスのエリザベス2世なのですね。カナダには今はミカエル・ジャンという人物が総督としてエリザベス女王の名代としていますが、既に英連邦として英国のエリザベス女王を訪問したことがあるという理屈が先に立っているようです。そういう視点から見れば、今回のカナダ訪問は「英連邦の元首はエリザベス2世」という形式論を超えた意味合いがあるように思います。


 この総督、元々はイギリス国籍を持っている人間が指名されていました。1952年までは英国貴族出身者でした。しかし、その後はカナダ国籍を持っている人間が総督になっています。カナダらしいのは、フランス系と英系が交互にポストに就いているということです。最初はカナダ側から複数の名前を挙げて、エリザベス女王に選んでもらう手続きだったのですが、1967年からはカナダ首相は一人の名前だけを推挙するようになっています。総じて軍人や政治家経験者が多かったのですが、最近では女性、アジア系(クラークソン前総督)、アフリカ系(ジャン現総督)と多様な人が選出されるようになっています。


 政治的な力は実質的にはないのですが、名目的には相当な権限を持っています。かつてはそういう権限を使って、1920年代に政府が議会の解散を要求したら総督が拒否して政治的に問題になったこともあっています。21世紀に入っても、たしか、2002年のクレティエン首相による解散を当時のクラークソン総督が拒否するのではなんていう噂があったくらいです。もう一つの英連邦の大国オーストラリアでは、1975年にはカー総督が上院の信任を失ったウィットラム首相を辞任に追い込んで、選挙管理内閣を作ったという例があります。まあ、やろうと思えば、それくらいの権限が(名目上)与えられているということですね。


 カナダやオーストラリアではあまりありませんが、今後、政党が分散化して、どの政党グループも多数派を構成できず、連立交渉があまり功を奏しない時は、ある程度の調整を経て、総督による「大命降下」みたいなことも権限上はありえますし、そういうことが必要になる時もあるのかもしれないなと思ったりします。


 私は単純な発想をする人間なので、こんな前近代的な制度は廃止して、カナダもオーストラリアも共和制に移ればいいのにと思います。この2つの国が移行すれば、他の英連邦もすべて移行するでしょう。ただ、オーストラリアではそれなりに共和制への志向は強いですが、カナダはそうでもありません。やっぱり国王を擁することへの思いというのがあるのかなと感じます。たしかに王政を廃止した国に行くと、王族への憧れみたいなものを感じることはあります。あのフランス革命を経験したフランスですら、今でも王族に対して羨ましそうな顔をすることがあります。


 いずれにせよ、アンティグア・バーブーダ、オーストラリア、バハマ、バルバドス、ベリーズ、カナダ、グレナダ、ジャマイカ、ニュージーランド、パプア・ニューギニア、セントクリストファー・ネイヴィス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、ソロモン諸島、ツバルという英連邦に入っている国について、「これらの国の元首であるエリザベス女王と顔が繋がっているから、それでこれらの国との皇室レベルでの顔繋ぎは十分」という発想は止めた方がいいですね。あまりに形式的に過ぎるような気がします。