北朝鮮による第二回目の核実験に対応するかたちで、国連安保理決議1874が採択されました。とても長い決議で複雑なのですが、「つまり、何をすることが求められ、また、できる決議なのか?」ということを考えてみたいと思います。


 その前に基礎的な情報として、第一回目の核実験の際に採択された安保理決議1718の中で制裁内容に当たるものを挙げておきます(外務省サイトから抜粋)。以下でこのデータが結構引用されます。


【国連安保理決議1718パラ8】
(a) 武器・大量破壊兵器等関連物資、奢侈品の輸出禁止
(b) 武器・大量破壊兵器等関連物資の調達規制
(c) 武器・大量破壊兵器等関連役務取引の禁止
(d) 大量破壊兵器計画関係者等の資産凍結
(e) 大量破壊兵器計画関係者等の入国禁止
(f) 貨物検査を含む協力行動


 さて、これを前提に今回の決議はどうなっているのかということです。決議については、外務省国際法局的には訳が正確ではないところがありますがこれ を参照ください。


 なお、この手の決議を読む際のコツですが、「demand」、「require」、「decide…shall」といった用語は強制性のある言葉遣いです。加盟国は義務として、これらの規定に従う必要があります。逆に「call upon」という表現は和訳すると「要請する」でして、決議解釈上は「お願いする(けどやってもやらなくてもOK)」ということです。この辺りが分からないと、読んでもさっぱり意味合いが掴めないはずです。後で書きますが、このあたりの用語の使い方が一番揉めるところなのです。一般論ですが、今回のケースでは日米がすべて「demand」、「require」、「decide…shall」の用語をちりばめて押しまくったのに対し、中国が「call upon」で対抗してきたというものが多いはずです。「call upon」が使われている箇所は大半が中国が文言を弱めようとして押し返した場所と見ていただいてOKです。


● 前文6パラ目:ここにあるような「他の安全保障上及び人道上の国際社会の懸念(other security and humanitarian concerns of the international community)」の中に拉致問題が読み込まれていると見ていいでしょう。「拉致(abduction)」という言葉が入れば御の字ですが、なかなかそうはなりません。ただ、読み方によっては、北朝鮮国内の避難民問題だという解釈も可能ですね。


● パラ2・パラ3:弾道ミサイル技術を使用したミサイル発射や関連活動を禁じています。つまり、弾道ミサイル技術を使用しないミサイル発射は禁じられていません。日本海に撃つミサイル短距離のミサイルは禁じられていないと理解できるものです。


● パラ5:ここは英語で微妙な表現です。北朝鮮が核不拡散条約から「脱退」したから戻って来いということではありません。「脱退した宣言を取り下げろ」ということです。そもそも、withdrawという言葉には「引き下がる」という具合の感じで、真正面から「脱退」というニュアンスよりは少し弱いです。核不拡散条約のメンバーと認識しており、また、戻ってこれるようなドアは開けているということではないかと思います。


● パラ7:ここでは決議1718での義務を遵守しなさいよという要請ですが、別に何か真新しいことはありません(決議1718での義務はすべての加盟国が遵守しなくてはならないことは言うまでもありませんので)。

● パラ8:北朝鮮はすべての核関連活動を止めろという強い表現であり、重要なポイントではありますが、論評する場所はあまりありません。


● パラ9:上記の1718パラ8(b)の「武器・大量破壊兵器等関連物資の調達規制」をすべての武器や関連物資や関連役務等にまで広げられたということです。汎用品規制、役務規制にまで踏み込んでいますが、すべて武器関連ですから、この程度であれば中国もOKだったということでしょう。


● パラ10:上記の1718パラ8(a)の「武器・大量破壊兵器等関連物資、奢侈品の輸出禁止」が、小型武器等を除くをすべての武器や関連物資や関連役務等にまで広げられたということです。そして、小型武器等の北朝鮮向け輸出についても警戒するよう要請したということです。ここも基本的に武器関係に限定されているので中国はOKだったということでしょう。小型武器等を除外したのは、中国かな、もしかしたら武器取引のありそうなロシアかなという気もします。


● パラ11:このあたりから厳しい内容が盛り込まれていますが、ここはやはり「call upon」です。しかも、「in accordance with their national authorities and legislation, and consistent with international law」と来ていますから、やりたくない国はやらなくていいことが念を押されています。ここでは種々の禁輸措置がきちんと遵守されているかどうかをチェックするため、北朝鮮行及び発のすべての貨物検査を行うよう要請しています。ただし、自国領内でということになっていますからね。あまり効果的な規定ではないでしょう。


● パラ12:公海上で禁輸措置が守られてなさそうな船を見つけたら、検査をすることを要請しています。やはり「call upon」です。しかも、ここでは旗国の同意が求められています。公海上では、船は旗国の支配下にあると想定されていますから、旗国の同意が求められるのが常です。国連海洋法条約では常にそうなっています。ここでもその壁は破れていません。勿論、北朝鮮の船について、北朝鮮がそんな同意をするはずがありません。


● パラ13:ここらへんになると一番激しく交渉したんだろうなということが見えてきます。すべての国が検査措置に協力するよう要請していますが、旗国が公海上で同意を与えない場合は、旗国はその船を適当な港に誘導するよう決定しています。後半は義務的な規定ですが、読めば分かるように別に近隣の港に誘導するよう求めているわけでもなく、何が「appropriate」で「convenient」かを決める主体は明示されていません。つまり、北朝鮮は公海上であれこれ言われても無視し続けることが可能な規定になっています。日本から「横浜港に入れ」と言ったとしても、「そこはappropriateでもconvenientでもない」と撥ねつけることは可能です。「decide…shall」という強制性のある表現を「an appropriate and convenient」という得体のしれない表現で無効化したということですね。


● パラ14:検査措置で禁輸品目が見つかった際は、押収、廃棄する権限が与えられ、また、押収、廃棄を実行することを決定したということです。まあ、強制性のある表現ですが、事前段階での検査措置がかなりザルなので、そもそもやる気のない中国には何の効果もありません。そもそも、検査措置をあまり気合い入れてやらないだろうと思われる中国ですから、事実上何もやらないということに近いです。


● パラ15・16:検査、押収、廃棄をしたら報告しなさいとか、検査措置に対する旗国の同意が得られない時は報告しなさいと書いてありますが、まあ、北朝鮮は同意しない際は腹が座っていますから、安保理にあれこれ報告されても痛痒にも感じません。


 ・・・とここまで書いたところで、力尽きてきました。残りはまた気が向いたら書きます。何が言いたかったかというと、「日本政府はよく頑張ったと思うが、ミニマムでしか対応しないと決意している国からすれば殆ど追加的な制裁措置はない」ということです。しかも、検査措置ですが、今後北朝鮮の船は中国の沿岸近くを進んでいくでしょうから、具体的に北朝鮮船籍に公海上で出遭うことは殆どないでしょうし、出遭っても殆ど有効な措置を講ずることは難しいでしょう。