弟から「あまり横文字は使わないように」と指摘があるのですが、今日は「政府調達」のお話です。かつて、アメリカで日本製品に対抗して「アメリカ製品を買おう」ということで「Buy American」という運動がありました。日本の経済が脅威と思われていた時代、ニューズウィーク誌のジョークで、日本人がその「Buy American」のプラカードの「n」を消して、「Buy America(アメリカを買おう)」と訂正しているマンガを見たことがあります。今となっては、ちょっと懐かしいですね。それくらいの気概がまた日本には欲しいです。


 先日、北九州市議会で補正予算審議が行われた際、学校・幼稚園などでの地上デジタル対応テレビ等整備事業(16億3900万円)が含まれていたのですが、これを地元企業の経済対策として役立てることを求める付帯決議が全会一致で可決されました。これだけですと、何のことか分かりませんので解説します。


 実は北九州市のような政令指定都市には、WTOの政府調達協定の適用があります。これは何かというと、行政機関による政府調達には、一定額以上のモノやサービスは、内国民待遇(日本産と外国産を差別しない)、無差別待遇(A国とB国で扱いを差別しない)という原則が適用になるのです。具体的には、事実上、誰でも参加できるかたちで「一般競争入札」をやりなさいということとほぼ同じです。WTO政府協定上は、国の機関ですと2200万円、地方自治体ですと3500万円以上の調達は適用になります(モノのケース)。なお、日本はアメリカとの日米構造協議で、国の機関については更に譲歩して1700万円としています(当然、他国にも適用あり)。


 この地デジ事業については、16億3900万円ということなので当然政府調達協定の対象になります。私の邪推では、この補正予算の事業を指名競争入札か、随意契約にさせて、地元北九州の業者に利益誘導しようとした議員がいたのではないかと思います。そうしたところ、市役所から「いや、一般競争入札になるんですよ」と指摘され、それに憤慨したのではないでしょうか。(私は事実関係を検証できませんが)仮にそうだすれば邪なものを感じないわけではありませんが、だとしても、問題意識自体はとても共有できるところです。折角、市が行う事業で地デジテレビを調達するのだから、できれば北九州市の業者さんに取ってほしいと思うことは別に変なことではありません。狭量かもしれませんし、自由貿易に反する考えなのかもしれませんが、市税もろくに払ってない企業に持っていかれたくないと思いますね。


 この政府調達協定ですが、考え方は協定に加入している国(と地方自治体)の政府調達には、世界中何処からでも参入できるようにすべきということです。今回の北九州のケースでも、例えば、アルゼンチン(日本の真裏にある国としての例示)の家電メーカーが落とすことも理屈の上では可能です。WTO協定(厳密には政府調達協定はWTO加盟国すべてが入っているわけではありませんけど)というのは、基本的にそういう考え方が根底にあります。


 ただ、国内での運用を見ていると、この政府調達協定は外国企業の参入を促すというよりも、特に北九州市のような中堅の政令指定都市クラスでは東京の企業の参入を促しているだけのような気がしてなりません。まあ、今回のような16億円を超える案件ですと外国企業の参入も大いにあり得るのでしょうが、まあ限度額ギリギリの3500万円クラスでは外国企業が仕様書をあれこれと準備してまで取りに来ることは多くないはずです。そうなってくると、内国民待遇と無差別待遇が適用されることによって得をしているのは、同じく政府調達協定適用前には参入可能性があまりなかった東京の企業のような気がしてなりません。


 それでも、モノの調達なら、まだ分かるのですが、サービスの調達で地元に足場のない企業が入札しているケース(例:形だけの事業所が置いてあるだけの企業)になると、提供されるサービスの質が気になってしまいます。繰り返しになりますが、折角の市の事業なのに市税もろくに払わない企業に落札されることへのやるせない思いは拭えませんね。


 まあ、ゴチャゴチャ書きましたが、政府調達協定はむしろ対象主体、対象分野共に拡大していく傾向にあります。私が今日書いたことは、ただの遠吠え以外の何物でもありません。何となく上手くルールをかい潜る方法はないものかと少し悪知恵を回してみたくもなりますが難しいですね。


 日本はこういうのが下手なのです、EUなんかは、協定対象機関を個別に明示せず、協定対象機関となる機関の要件だけを書いて曖昧にしている部分があったはずです。解釈の余地を残しているわけです。どうせ、現場では相当テキトーなことをやっているはずです。その一方で、民営化してもうかなり経つJRやJTすら、まだ協定対象機関から外せない日本。もどかしいですね。思い切って、「独立行政法人はすべて政府調達協定は対象外」と主張してみると面白いかなと思いつつも、「もしかしたら、それって独立行政法人の随契を推奨することになり、非効率性をむしろ温存する方に回るということなのかな?」と別の疑問が頭をもたげたりします。


 ちょっとオタクっぽいネタでした。