ガボンのボンゴ大統領が亡くなりました。73歳でした。中部アフリカの100万人程度の小さな国の大統領ですが、そのインパクトは結構大きなものがあります。そもそも、ボンゴ大統領は大統領在任42年、と超長期政権です。彼より長くて存命なのはフィデル・カストロくらいですね。日本に置きなおしてみると、ボンゴが大統領になったのは、佐藤栄作首相の時代です。旧宗主国フランスで言えば、まだシャルル・ドゴールの時代です。その後、ポンピドゥー、ジスカール・デスタン、ミッテラン、シラク、サルコジということで、その長さが御理解いただけると思います。


 最近まで、トーゴのエヤデマ大統領とガボンのボンゴ大統領がアフリカの長老として、アフリカ政治にドスンと腰を据えていました。何度も書きますが、アフリカではなんだかんだ言って「長老政治」的なものがあり、紛争解決では長老が一定の役割を果たします。中央アフリカ内戦、コンゴ内戦等でボンゴは幾度となく仲裁の役割を果たしてきました。さて、これも既出ですが、アフリカで今、在職20年を超える元首級は以下のとおりです。さて、この中でボンゴ並の重みを持っている人物というと北アフリカ勢ばかりですね。サハラ以南では、私はウガンダのムセヴェニ大統領にちょっと期待したい気持ちがあります。何故かと聞かれると難しいのですが、独裁と開放の間で微妙にバランスを維持する開明的な印象があるのです。


・ ジンバブエ:ムガベ大統領(1980-1987に首相、87年から大統領)

・ ウガンダ:ムセヴェニ大統領(1986年から大統領)

・ アンゴラ:ドス・サントス大統領(1979年から大統領)

・ カメルーン:ビヤ大統領(1975年-1982に首相、82年から大統領)

・ コンゴ共和国:サスー・ンゲッソー大統領(1979-92及び97年から現在まで大統領)

・ 赤道ギニア:ンゲマ大統領(1979年から大統領)

・ エジプト:ムバラク大統領(1981年から大統領)

・ リビア:カッザーフィー最高指導者(1969年から事実上の国家元首)

・ チュニジア:ベンアリ大統領(1987年から大統領)

・ スワジランド:ムスワッティ3世国王(1986年から国王)

・ ブルキナ・ファソ:コンパオレ大統領(1987年から大統領)


 ボンゴ大統領というのは、ガボンの中でもテケ族という少数民族出身ですが、そのハンディを乗り越えて1967年に大統領まで上り詰めます。ガボンというのは、偏に石油で生きているような国でして、それ以外はせいぜい木材とマンガン、モリブデンといった鉱物資源が取れる程度です。昔、私のセネガルでの同僚がその後ガボンに転勤していったのですが、「ガボンには産油国に典型なダメダメさがある。セネガルがとても羨ましい。」と言っていたのが思い出されます。


 人口が少ないのに、オフショアで石油が出るということで統計上はとてもとても豊かな国です。アフリカの中で、一人当たりのGDPが6000ドルを超えてくるのは南アフリカとガボンだったように記憶しています(が、最近は赤道ギニアあたりが伸ばしているはず)。しかし、ガボンという国全体は決して豊かではありません。一般の国民は全くその豊かさを享受していません。富の偏在が著しいのですね。ボンゴとそれに連なる一味がとてつもない蓄財をしていることはよく知られています。そのくせして、ドナー国には「石油は出るけど、うちの国は貧しい。援助してくれ。」と平気で言ってきていました。私なんかは「それって、おたくの内政問題でしょ。富の偏在さえ解決すれば、すぐにでも貧困は解決できるはず。」と思っていました。


 ボンゴはその石油マネーを上手く使って、外交を展開していました。産油国との連帯を深めるためにOPECに入ったり、ついでにイスラムへ改宗までしました。宗主国フランスとの関係で言えば、石油を通じてエルフと関係が深かったですね。ガボンの石油利権に群がるフランス人の数は結構なものがあります。あと、ボンゴはフランス政界のあちこちにカネを配っていたことでも有名です。左派、右派問わず配っていました。検証できませんが、たしか極右政党国民戦線にまでカネを配っていたと聞いたことがあります。まあ、ボンゴがパリに来るとかつては超一流ホテル・クリヨン・ホテルを常宿にしており、政治家や財界人がボンゴ詣でをしていました。


 フランスは、ガボンに基地を置いていますし、ともかくボンゴに対する厚遇は並々ならぬものがありました。対アフリカ政策を考える際に避けては通れない存在でした。ここ数年、フランスの裁判所で「ボンゴがこんなに蓄財をして、フランス国内にも不動産をたくさん持っているのは、国内で不正を行っているからだ。不正に取得された不動産は差し押さえるべし。」ということで訴訟を起こされ、ボンゴはフランスに対して非常に抗議をしていました(こういう訴訟はフランス、そして特にベルギーで起こされます。国内では裁判にならないから、宗主国で訴訟を起こすのは心情的には理解できないことはないのですが、私はあまり好きではありません。)。一説には2億ユーロ近い隠し資産があるとも言われています。シラクやサルコジも相当程度、ボンゴを宥めるのに気を使っていたような感じがあります。


 そんなボンゴ大統領が亡くなりました。多分、ガボンは少し不安定化するでしょう。ボンゴの存在感にとって代わることができる人物は到底見当たりません。息子のアリ・ボンゴが防衛相ですが、見た感じあまり有能そうには見えません。アフリカの臍みたいな場所が不安定化すると、ただでさえ周囲には不穏な国があるのに面倒です。しかも、フランスにとっては、古くからのアフリカとの関係の軸となっていた人物が居なくなったということで、ちょっと対アフリカ政策の見直しが必要になるでしょうね。