先日、海上自衛隊のP3Cが海賊対策のためにジブチに向かいました。かつての同僚だった方が、この部隊で重要な役割を担っておられます。是非、部隊のミッション成功と無事を祈るばかりです。


(すぐに本題からずれますが、私が自衛隊の海外派遣について一貫して思っていることがあります。それは「現場に行く自衛官を足蹴に言うことは絶対にダメ。派遣する是非については大いに政治レベルで議論すればいいが、それと現場で活動する自衛官は別。」ということです。どうも、政策論で反対だと「坊主憎けりゃ袈裟まで・・・」となる方がいるので、あえて私の信念を書き記しておきます。)


 ところで、このジブチという国、全然知られていないと思います。とても、とても小さな国です。ただ、イエメンとジブチとの間にあるバーブ・ル・マンデブ海峡はエジプト、イスラエル(エイラート)、ヨルダン(アカバ)、サウジ、そしてスエズ運河に繋がる紅海への入り口であり、ソマリアと国境を接し・・・、と最近の国際情勢を見れば、ここぞ交通の要所と言われる場所です。フランスはスエズ運河の開通を機にこの地域をフランス領ソマリランドとして植民地化します。当時、英仏対立が激しく、イギリスがイエメンのアデンへのフランス籍船の寄港を拒否したのでやむを得ずジブチの方に目を向けざるを得なかったという事情があります。それにしても、スエズ運河を作ったのがフェルディナン・ド・レセップスというフランス人だということと併せて、このフランスの選択というのは戦略的に巧みだと感心してしまいます。こういう戦略地を押さえる発想は見習うべきものがありますね。勿論、今も重要な戦略地としてかなりのフランス軍が駐留しています。インド洋や中東ということでは、このジブチとマイヨット島(コモロ諸島の一つの島)がフランスにとって重要なポイントになります。


 ちょっと余談ですが、シバの女王という話があります。イスラエルのソロモン王を訪ねて行ったということが旧約聖書に出てきます。あのシバの女王はイエメン出身説とエチオピア出身説があります。私はエチオピア説の方がロマンチックで好きです。そういう前提に立てば、シバの女王はイスラエルを訪れる際、必ずこのジブチを通ったはずです。もう一つ蘊蓄として、コーヒーというのは多分原産地がエチオピアだと思います(異論はありますが)。コーヒーがアラビア半島に、そして世界に広がっていったのも、多分このジブチからだろうと思います。


 それはともかくとして、逆にこういうところへの目の付け方が悪いのが日本です。最近までジブチという国を担当するのは、在フランス日本大使館でした(今は在エチオピア大使館が担当)。パリからジブチを担当するというのは面白いジョークにしかならないわけで、全く注目していなかったことの証左です。私は外務省にいた際、時折「ソマリアみたいな不穏な国もあるし、エチオピアはジブチを経由してしか外海に出られないし、エチオピア・エリトリア紛争の客観的なフォローもあるし、中東へのリーチも考えたら、ジブチに大使館を置いておく方がいい。何なら(フランス語を話す)自分が行ってもいい。どうせ一人でプラプラしてるから。」と話していたのですが、「そこまでの必要性なし」と判断したのかどうかは知りませんが、アフリカ担当の方ですら相手にしてくれませんでした。今、P3Cを派遣する際、現地に大使館すらなくてどうするんだろうと不安になってしまいます。防衛省的にも現地情報が取りにくいのでやりにくいはずです。


 ジブチはこれまではフランスの勢力圏でした。フランス軍の存在で経済が成り立っているかのようなところがありました。しかし、2006年くらいからやはりこの地の重要性に目を付けたアメリカが米軍を置いています。しかも、フランス軍がかつていた地域の跡地に米軍が入り込んできています。まあ、フランスとしては表向きはノンとは言えなかったでしょうが面白くはないでしょう。アラビア半島での米軍のプレゼンスに対する反発が強い中、どうしても目が向くのは政治的に安定していて、イエメン、サウジアラビアがすぐのところにあるジブチになるのは当然と言えば当然です。主導権争いをするつもりは米仏双方にないでしょうけど、このジブチをめぐってはちょっとしたせめぎ合いがあることは覚えておいて損はないように思います。


 国際社会でこれだけソマリアという地域が注目されており、かつ中東へのリーチがとても良いジブチです。今回のP3Cで注目され始めましたが、ちょっと遅きに失した感があります。実はこのジブチの話と一緒に、「軍のプレゼンス」というテーマでフランス軍がアラブ首長国連邦に基地を設けた話を書こうと思ったのですが、今日は力尽きました。次にします。