島サミットと呼ばれる会合が、北海道の占冠村で行われていました。夕張と十勝の間くらいにある村です。


 この島サミットにはパプアニューギニア、フィジー、ソロモン、バヌアツ、サモア、トンガ、クック諸島、ツバル、ニウエ、ミクロネシア、キリバス、マーシャル、パラオ、ナウル、オーストラリア、ニュージーランドという国が参加しています。その内、ニウエとクック諸島というのは、日本が国家承認していないので、実際には「地域」扱いです。しかし、今回の島サミットでは日本とニウエが共同議長「国」でした。島側の南太平洋フォーラム(PIF)側では、ニウエが当番で議長をやっていたからでしょう。法文官僚的には「共同議長『国』」と呼んでいいのかどうか、微妙なところではあります。


 まあ、「島」と言っても千差万別です。トリビアになりますけど、パラオのアンガウル州というところでは日本語が公用語になっています。日本の領土以外で日本語が公用語の場所というのはここだけのはずです。かつての大統領は「クニオ・ナカムラ」さんでしたし、大事にしたい国です。人種にしても、ミクロネシア系、ポリネシア系、メラネシア系とかなり分かれます。フィジーではインド系がかなり商業の枢要なところを握っていたりもします。総じて、英語圏ではありますがバヌアツのようにフランス語が通じるところもあります。宗教的にはキリスト教が大半である一方、上記のフィジーではヒンドゥー教が一定の勢力を維持しています。ソロモン、フィジーのように政情が不安な国もありますし、トンガみたいに王国もあります。まあ、多種多様だということですね。


 まあ、そんな国々ですが、総じて共通しているのは「産業が多様化していない」ということです。人口が少ない、国土が狭い、ということになれば、どうしてもモノカルチャー経済になりがちです。ナウルなんて国は、鳥の糞が化学反応を起こしてできた燐鉱石に依存してきました(が、それも尽きてきています)。こういうところでは、新自由主義経済なんてのは到底当てはまりません。国際貿易の理論でいうところの「比較優位」もヘッタクレもありません。こういうところに、10年前くらいに流行ったIMF的な経済モデルを適用すればすぐに経済が潰れてしまうでしょう。WTOでいうところの自由貿易体制なんてのも、全く別の世界です。今回の島サミットで、こういう島嶼国の抱える問題点に正面から取り組んだのかどうかは、ウェブサイトからでは分かりません。折角の機会だったので、「あなた方にはそもそも限界がある。その限界の中で生きていくのは大変なことだ。だけど、こういう方策を辿ればいい。」という処方箋を提示する野心的なアプローチがあってもいいと思うんですね。例えば、島嶼国がモノカルチャーで作っている農作物等については無税で輸入してあげるとか(一部は既に実現していますけど)、ハワイやグアムばかりじゃなくて、政府が旗を振ってこういう島への観光を促進してあげるとか・・・。


 ちなみにどうでもいいことですが、インターネットのアドレスでテレビ系のサイトに「.tv」というのがありますね。あれは実は「ツバル(tuvalu)」です。たしか、アメリカか何処かの会社が数十億円払ってツバルからこの「.tv」を買っていたような記憶があります。上手いビジネスだと思ったものです。


 あとはご存じの地球温暖化ですが、気候変動枠組み条約の会議でツバルの代表が「これ以上、地球温暖化が進んで海面が上がったら、国の平均標高が1.5メートルのうちの国は全部沈む」みたいな発言をしていたのを思い出します。地球温暖化はキレイ事のように聞こえますし、温室ガス削減に反対する勢力もあちこちにいますが、ツバルの代表からそう言われると、どんな国であってもその発言に抗うことはできないでしょう。地球温暖化最前線です。ただ、これは島サミットのテーマにするには、少し重すぎるかもしれません(日本一国ではどうしようもないという意味で)。


 さて、これらの国へ何故日本がリーチを伸ばしているか。多分、「国連安全保障理事会常任理事国入り」というテーマとは無縁ではありません。国連総会では小さなパラオもしっかりと一票を持っています。島サミットを5回行って、南太平洋島嶼国に秋波を送ってきたのは、このあたりを票田にしたいという思いがあるはずです。取り込みに要する援助額との費用対効果の良さを考えれば、たしかにその戦略は間違っていません。


 しかしですね、ここにも中国の影があります。中国も島サミットをやっています。かなり援助をはずむはずです。今回、3年間で500億円の支援を約束しましたが、中国だって同じくらいの支援はするはずです。なかなか、中国を脇において日本だけに顔を向かせるわけにはいかないでしょう。しかも、中国は「島」で頑張らなくてはならない理由があります。というのも、台湾承認国が多いのです。かつてはアフリカやカリブで承認国を増やした台湾も、今では結構、承認をめぐる北京との札束合戦に負けることが増えてきました。特にアフリカでは連戦連敗です。そういう中、中国と言えば中華人民共和国ではなく、台湾を承認している国がキリバス、ナウル、マーシャル諸島、パラオ、ツバル、ソロモンと6つもあります。放っておけば、台湾から更にひっくり返される可能性もあります。そういう意味で国の威信をかけて気合の入った北京政府と日本が伍して戦っていくのは、なかなか大変なものがあります。台湾との札束合戦をやっている北京政府と美人投票をやるだけの気概がないとダメですね。


 まあ、色々書きましたが、かつて太平洋戦争でご迷惑をおかけした地域です。日本への親近感と反発が綯い交ぜになっている地域でもあります。そして、放っておけば地球温暖化、経済の困窮、内戦等の問題を抱え続ける地域でもあります。忘れがちな国ばかりですけど、常に思いを致していたいと感じています。