インド洋に浮かぶ、フランス領マヨット島がフランスの101番目の県として統合されることが住民投票で決まったようです。フランスという国は、本土に96の県があり、海外にはこれまでグアドループ、マルティニーク(以上カリブの島)、仏領ギアナ(南米)、レユニオン(インド洋)という4つの県があります。その他にもニューカレドニア、ポリネシアみたいな海外領土や、果ては南極に近いところにあるケルゲレン諸島(200海里水域が南極条約の対象地域に引っかかる)、アデリーランド(南極条約の対象)まで、まあ世界中のあちこちに領土をポチポチと抱えています。メキシコの太平洋沖にクリッパートン島という無人島があり、これもフランス領です。かつて、メキシコと領土紛争になり、その判決が今でも領土紛争ではよく引用されますね。まあ、私がメキシコ人だったら、こんなところにフランスが領土を持っていること自体不愉快でしょう。


 そんな中、マヨット島という島がフランスの県として「不可分として一体の領土」になります。元々フランスの領土でしたが、県になるというのは単なる領土ではなく、かなり本土への統合の度合いが高いですね。勿論、本土との格差はある程度あるのですが、最低賃金、社会保障・・・、本土の水準にかなり近づいてきます。逆に言えば、生活水準や物価水準が本土ほど高くないのに、本土を基準に色々な制度が作られてしまうと、結果として非常に過剰な補助になってしまうこともあります。何となく、フランスの海外県は補助金漬けで気だるい感じが漂っています。


 それはともかくとして、このマヨット島というのは実はコモロという諸島の一つを構成しています。コモロというのはマダガスカル島の上あたりにある諸島でして、大きく分けてグランド・コモロ、アンジュアン、モヘリ、マヨットの4つの島から成ります。そして、その内でマヨット島だけがフランス領を構成しているのです。


 まあ、可哀想な国でして、1975年に独立してからは経済は安定しない、政情は不安定・・・と典型的な最貧国です。驚きなのは、私が2000年くらいにデータを調べた際、独立後25年でクーデターが19回という事実を知ったことです。毎年1回弱のクーデターですから、日本でイメージすると小泉総理退陣、安倍総理辞任、福田総理辞任のすべてがクーデターだったというくらいの感じです。そんな国は悲惨です。コモロという名前の由来はアラビア語の「お月様」ですので、多分夜空を見上げるとお月様が綺麗なんでしょうけどね。そんな国がクーデターばっかりというのも皮肉なことです。


 1975年にコモロが独立を果たそうとする際、各島で住民投票をやったのです。その時、フランスに残るという意思を唯一表明したのがマヨット島だったのです。コモロという国の中で扱いが低くなることをマヨット島が恐れたとか、マヨット島はマダガスカル出身者が多くかつイスラム色が薄いため、他の3つの島と違うとか、フランスがこの地域に軍隊を置き続けたいと思ったとか、色々な説明がありますけど、フランスが裏で画策したのはどうも確実のようです。今でもフランスはマヨット島に海軍や外人部隊を置き続けています。


 まあ、このマヨット島のフランスへの統合は、アフリカ諸国を中心に国連で激しく非難されまして、国連総会でフランスを非難する決議が出ています。読んでみると、それはそれは激しい言葉遣いです。フランスが常任理事国の安全保障理事会では決して審議すらされない内容でしょうね。簡単に言えば「植民勢力フランスはマヨットから出て行け」ということが書いてあります。まあ、フランスはこれを完全に無視して、再度住民投票をやらせてフランス領であることを確定させていますけど。


【マヨット島に関する国連総会決議】

The General Assembly,



Recalling that the people of the Republic of the Comoros as a whole, in the referendum of 22 December 1974, expressed by an overwhelming majority its will to accede to independence in conditions of political unity and territorial integrity,



Considering that the referendums imposed on the inhabitants of the Comorian island of Mayotte constitute a violation of the sovereignty of the Comorian State and of its territorial integrity,



Considering that the occupation by France of the Comorian island of Mayotte constitutes a flagrant encroachment on the national unity of the Comorian State, a Member of the United Nations,



Considering that such an attitude on the part of France constitutes a violation of the principles of the relevant resolutions of the United Nations, in particular of General Assembly resolution 1514 (XV) of 14 December 1960 concerning the granting of independence to colonial countries and peoples, which guarantees the national unity and territorial integrity of such countries,



1. Condemns and considers null and void the referendums of 8 February and 11 April 1976 organized in the Comorian island of Mayotte by the Government of France, and rejects:



(a) Any other form of referendum or consultation which may hereafter be organized on Comorian territory in Mayotte by France;



(b) Any foreign legislation purporting to legalize any French colonial presence on Comorian territory in Mayotte;



2. Strongly condemns the presence of France in Mayotte, which constitutes a violation of the national unity, territorial integrity and sovereignty of the independent Republic of the Comoros;



3. Calls upon the Government of France to withdraw immediately from the Comorian island of Mayotte, an integral part of the independent Republic of the Comoros, and to respect its sovereignty;



4. Invites all Member States to render effective assistance, individually and collectively, to the Comorian State and to cooperate with it in all fields with a view to enabling it to defend and safeguard its independence, the integrity of its territory and its national sovereignty;



5. Appeals to all Member States to intervene, individually and collectively, with the Government of France to persuade it to abandon once and for all its plan to detach the Comorian island of Mayotte from the Republic of the Comoros;



6. Calls upon the Government of France to enter into negotiations immediately with the Government of the Comoros concerning the implementation of the present resolution.



 フランスという国は、マヨット島みたいな「それでも僕達はフランスに残る」という意思を表明してくれる相手にはとても優しく接します。それ以外の3つの島に対する見せつけも兼ねて、それはそれは露骨にマヨット島に支援をしてきました。逆にコモロとして独立した3つの島は、フランスから捨てられてしまいます。しかも、コモロにはボブ・ドゥナールというフランス人の傭兵隊長が居座って、独立以降かなりの期間は政権を事実上握ったような状況でした。


 因果関係はよく示せませんが、私はコモロという国が不安定なのはマヨットがフランス領として残り、他の3つと違った道を歩んでいることが原因だろうと思っています。傍にフランスの援助でそこそこリッチな生活を送る島があるのがチラチラと見えてしまうと、コモロという国の統一性が損なわれるんでしょうね。実際、1990年代にはアンジュアン島、モヘリ島が独立を宣言して、「自分達もフランスに統合されたい」と要望しましたけど、フランスはこれを撥ねつけます。「可愛いヤツ」と「可愛くないヤツ」をはっきりと分けて、対応をビシッと仕切るやり方は相変わらずだなと思ったものです。



 今はグランド・コモロ、アンジュアン、モヘリ各島に高度の自治が与えられる形態で、コモロという国は維持されています。しかし、これからも隣で発展していくマヨットを見つつ、自分達は厳しい道を歩み続けるでしょう。実際、国としての統一性は殆ど維持できていません。


 今回のエントリーで何が言いたかったかというと、今でも旧植民地を弄ぶ欧州の国があって、それが私の眼にはとても不愉快なものに映っているということです。「マヨット島が101番目の県?御冗談を。」、そんな気持ちです。


 アフリカネタはなかなかコメントも付きにくく、「きっと関心を惹起しにくいんだろうな」と思いますが、個人的な備忘録的な意味合いもあり、非常に思い入れを持ってフォローしています。