尖閣諸島について、アメリカとのやり取りが少し滞っている印象があります。


 あの島は日本固有の領土だという点については、私は強い信念を持っています(なので、このエントリーは「外交」という区分けにはしておりません。)。政府も同様の認識であり、そもそも領土問題は存在しないという立場です。


 ちなみにトリビアの類かもしれませんが、あの島は私有地です。明治時代に古賀辰四郎という方が国から無償貸与を受け開拓を始め、その後、昭和になって息子さんが払い下げを受けています。そして、沖縄の施政権がアメリカにある際も古賀氏は使用料を受け取っていたそうです。その後、返還前後に栗原さんという方に譲り、多分今も栗原家の所有なのだと思います。2002年以降、領有権をきちんと確保するため国は尖閣諸島のうち3つの島の賃借を受けている状況でして、国は2450万7600円の賃料を毎年(多分)栗原家に支払っているはずです。ちなみに担当官庁は総務省です。


 ところで、日本の戦後処理としては、サンフランシスコ平和条約ですが、沖縄の信託統治については以下のような規定があります。


【サンフランシスコ平和条約】

第二条(領土権の放棄)

(略)

(b)日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

(略)


第三条(信託統治)

 日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦(そふ)岩の南の南方諸島(小笠原群島、西ノ島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。


 この中で何処に尖閣諸島が入るのかということですが、まあ、「台湾及び澎湖諸島」ではないでしょう。普通に考えれば第三条の信託統治の対象と見るのが筋です。実際、1945-1972まではアメリカが実効支配していたし、実際に賃料も払っていたし、警備もしていたことからも、それは裏付けられるはずです。ただ、サンフランシスコ平和条約上は100%明らかとまでは言えないところがあるのは事実です。


 その他にも調べてみれば、中国(中華人民共和国も、台湾も)は政府系新聞に尖閣諸島が日本の領土である記述があったとか、教科書にもその旨の記述があるとか、まあ、証拠を探せば、中国が尖閣諸島を(アメリカの施政権下にある)日本領だと考えていたということを証明するものはたくさん出てきます。ただ、これも国際司法裁判所で争うと仮定する場合(日本はその気はありませんが)、あくまでも傍証くらいの位置づけです。


 まあ、そもそも中国がこの尖閣諸島に領有権を主張し始めたのは、1970年頃に「近隣で石油が出るかも」という国連の報告が出たくらいからですね。ただ、一旦主張し始めた時の中国の押しはなかなかのものがあります。


 上記で少し留保を置きながら、尖閣諸島の法的位置づけについて書いてきましたが、一つ決定的なものがあります。それは1972年の沖縄返還協定です。


【沖縄返還協定第1条】

1.アメリカ合衆国は、2に定義する琉球諸島及び大東諸島に関し、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第3条の規定に基づくすべての権利及び利益を、この協定の効力発生の日から日本国のために放棄する。日本国は、同日に、これらの諸島の領域及び住民に対する行政、立法及び司法上のすべての権利を行使するための完全な権能及び責任を引き受ける。

2.この協定の適用上、「琉球諸島及び大東諸島」とは、行政、立法及び司法上のすべての権力を行使する権利が日本国との平和条約第3条の規定に基づいてアメリカ合衆国に与えられたすべての領土及び領水のうち、そのような権利が1953年12月24日及び1968年4月5日に日本国とアメリカ合衆国との間に署名された奄美群島に関する協定並びに南方諸島及びその他の諸島に関する協定に従つてすでに日本国に返還された部分を除いた部分をいう。


【合意議事録】

第1条に関し、

 同条2に定義する領土は,日本国との平和条約第3条の規定に基づくアメリカ合衆国の施政の下にある領土であり,1953年12月25日付けの民政府布告第27号に指定されているとおり,次の座標の各点を順次に結ぶ直線によつて囲まれる区域内にあるすべての島,小島,環礁及び岩礁である。

  北緯28度東経124度40分

  北緯24度東経122度

  北緯24度東経133度

  北緯27度東経131度50分

  北緯27度東経128度18分

  北緯28度東経128度18分

  北緯28度東経124度40分


 ちょっと分かりにくいですが、合意議事録の中にある地点を結んでできる図形の中にある島が「琉球諸島及び大東諸島」ですよ、ということが書いてあるわけです。では、尖閣諸島の位置ですが、非常に雑な書き方をすると、一番大きな魚釣島の場所が北緯25度45-46分くらいで、東経123度30分-32分くらいです。 勿論、合意議事録で規定される地点によってできる図形の中に入っています。


 つまり、アメリカは国際条約で日本に尖閣諸島をお返ししますということを約束しているのですね。返すというからには、それまでは施政権下にあったという類推は簡単に働きますので、やっぱりサンフランシスコ条約第三条の信託統治下にあったと結論付けることができます。


 1972年以降、日本は尖閣諸島を有効に支配してきたわけであり、本来であれば尖閣諸島が日本の領土であることについては、アメリカも約束をしているのです。ということであれば、当然、日米安全保障条約の対象にもなるという理解でいいはずなんです。


 ここにアメリカが難色を示しているというんですね。「領土問題は両国で解決してね」程度のコメントに留まっているのです。対中配慮なんでしょう。私はよく議論の敬意を知りませんが、もしかしたらアメリカは「返還後、領土問題には関知しない」という立場になっているのかもしれません。


 私はこの辺りをもっと押しながら、日本の領有権についてはっきりとアメリカに言わせるくらいの気構えがあってもいいように思います。たしか、アメリカの何処かの役所が竹島についてついて「係争中」みたいな記述をしたら、韓国は恐らく大統領レベルでアメリカに抗議をして取り消させたことが最近ありました。多分、アメリカ側がウンザリするくらい激しく抗議したのだろうということは容易に想像できます。日本にとっては不愉快なことですが、韓国はたかがアメリカの一役所の記述であっても領土に関することは絶対に許さないという姿勢を貫いたということは立派だと思います(しつこいですが、私は韓国の「認識」が立派だとは一言も言ってません。あくまでも「姿勢」です。)。「固有の領土だから、こちらが騒ぎ立てる必要はない」とのうのうと構えているだけでなく、最高レベルで押し込むくらいのことがあってもいいのかなと思うわけです。


 どうしても、アメリカに尖閣諸島の領有権について発言させるのが難しい場合は、お互いの条約で確定していることを確認してもらうだけでいいのです。「1945-1972まではアメリカの施政権下にあった」、そして「沖縄返還条約でアメリカは日本に返還した」、これだけをアメリカに言わせるだけでだいぶ違うと思いますよね。アメリカは「だけど、その後のことは知らない」と言いたいなら言わせといていいのです。逆に、既に条約で約束したことすら発言できないし、確約できないというのであれば、その時の日米の信頼関係は地に堕ちたと言ってもいいくらいです。


 まあ、中華人民共和国は「締約国でないサンフランシスコ平和条約そのものに拘束されない」くらいの言い方をするでしょうから、アメリカが何を言おうが対日では強い姿勢でくるでしょうが、まあ、上記のような言質をとるだけでも相当なインパクトはありますよね。


 前も書きましたが、領土は国の大本です。しかも、これは日米安保条約の適用範囲という安全保障に直結することです。国の大本が損なわれようとする時に厳しい認識と厳しい態度で臨めない人は政治家をやらないほうがいいように思います。