最近、時折「九州・山口の産業遺産群を世界遺産に」という話を聞かされます。福岡件がらみで言うと、「九州・山口の近代化産業遺産群」と「宗像・沖ノ島と関連遺産群」が昨年、国内の暫定リストに載りました。


 私は何を隠そう「世界遺産マニア」でして、何度か書きましたが「死ぬまでに100個」を目標にしています。今、65個だと思っていたのですが、その後の世界遺産登録により追加的に1つ増えたので(下記のニサ遺跡)、今は66個です。ただ、ここ2年くらいはとんと縁がありません。私が行った、最もマイナーな世界遺産はマリのバンジャガラの崖か、トルクメニスタンのニサ遺跡か、メルヴ遺跡でしょう。どれも相当にマイナー度が高く、日本人で行ったことがある方は少ないと思います。


 まあ、この世界遺産、直接関係ないとはいえ、観光促進に大きく貢献するようです。日本では「観光振興」の観点から語られることが多いです。あまり「観光振興」の議論が先行するのは、本義に反すると思うのですが、これまでの歴史が雄弁に語っているだけにやむを得ないのかもしれません。


 あと、これは実は政治と絡められることが多いような気がします。あまり偏見を持って語ってはいけないのでしょうが、熊野古道の登録に際しては、国内の暫定リストの中での優先度アップに関し、和歌山選出の現経済産業大臣の強い押しがあったでしょう。あと、「こりゃ典型的だ」と思ったのが、一昨年7月の石見銀山の登録です。一旦はユネスコの世界遺産委員会で「登録延期」で結果が出ました。しかし、時は参議院選挙前でした。私の邪推では、当時現職であった予定候補や島根選出の与党大物議員が外務省、文部科学省を呼びつけて、選挙の際のタマとすべく「何とか押し返せ」とかなり強く押し込んだような気がします。それを受けて、その時の近藤ユネスコ大使は獅子奮迅の働きをされたはずです。7月2日、参議院選挙の直前に石見銀山は登録されました(島根選挙区の選挙の結果はご承知のとおりです。)。


 このユネスコ世界遺産に登録されるためには、まず、日本が暫定リストに載せてユネスコに提出しなくてはなりません。上記の福岡県関係の2つはこの段階に漸く辿り着いたということです。その後、ユネスコ世界遺産センターというところが調査を委託し、その調査を受けて登録推薦するかどうかを決め、最後はユネスコ世界遺産委員会というところで判断をします。普通であれば、暫定リストに載せてから10年くらいを目処に判断をすることになっています。


 まあ、それはそれでいいのですが、私の世界遺産マニアとしての経験から言えば、福岡県の2件は相当に苦戦をするでしょう。沖ノ島は行ったことがないので何ともいえませんが、産業遺産群については相当程度自分の選挙区にもあるのでよく分かります。何がマズいということではないのですが、比較論として「相当に難しいだろうな」という直感が働きます。


 ところで、当地ではそれなりに世界遺産登録に向けて盛り上がっている面があるのですが、一つ気になることがあります。よく挙げられるのが「世界的な権威の方からのお墨付きを得ている」をいうことで、外国の「権威」といわれる人が「田川の二本煙突や堅坑櫓は九州北部全体で捉えてみると世界遺産級の価値がある」とか、非常に勇気付けるような発言をしていて、それを拠り所に皆で一歩前進と喜んでいる人がかくも多いのかと驚かされます。


 (誹謗中傷になるのであえて人物を特定しませんが)とても本件が気になったので、その「権威」と言われている人がどの程度の「権威」を持っているのかを調べてみました・・・・。何と言えばいいのですかね・・・、現実としては世界遺産登録について権限を持っている人ではありません。「世界遺産のうち、産業遺産を決める際に評価する役割を担う」と自己宣伝をしていますが、私は眉唾だと思っています。しかも、この「権威」さんは日本中複数の場所で「ここの産業遺産群は世界遺産の価値がある」とのたまって回っています。佐渡、釜石、新居浜、田川、萩・・・、幾つかのところで「素晴らしい価値がある!」と絶賛して回っています。私の直感は「日本では世界遺産がビジネスになる」ということで、あちこちで期待感のあることを言いまわってはおカネを稼ぐおじさんにしか見えません。


 単に日本人の悪しき「欧米崇拝」の一環で、欧米のそれらしきおじさんがもっともらしく賞賛しただけなのに、それを日本人が有難がっているだけのような気がしてなりません。多分、当該「権威」さんが東南アジア出身だったら日本人は信用しないような気がします。ユネスコという組織は、今の松浦事務局長によってかなり変わりましたが、前のマイヨール、前の前のムボウの時代は相当にヒドい組織で、変な「顧問」とか「アドバイザー」みたいな得体の知れないおじさんが跋扈していました。ともかくコスト感覚のなさや、コネ社会ぶりはヒドかったのですね。なので、ユネスコ関係では「誰が信頼に足るのか」をきちんと見極める必要があります。上記に書いた登録までの正式ラインに噛んでない人間の発言は、まずはよく裏を取って検証するのがいいと思います。

 九州・山口の近代産業遺産群を世界遺産に、という掛け声自体についてケチつけばかりをすることはいたしませんし、もし当選したら汗をかきたいと思いますが、ある程度の相場観を持っておくべきであり、かつ「(自称)権威」の発言に依拠して期待感を持って、持て囃して、その発言で自己満足することは労力とおカネの無駄です。覚めた目線を持って行きたいと思いますね。