【以下の話はすべて公開情報によって書いています。如何なる意味においても秘密の情報はありません。誤解を招きそうだったのであえて記しておきます。】


 今、国有財産の有効活用ということが盛んに喧伝されています。私が大学時代住んでいた寮は、実は1万平米くらいあったにもかかわらず、たった80人くらいしか住んでいない場所でした。今となってはとんでもない国有財産のムダ遣いのようなものでした(が、今は有効に使われているようです。)。たしか会計検査院にも「もうちょい有効に使え」と指摘されていたという話を聞いたことがあります。


 ところで、ちょっとしたトリビアですが、自民党の本部と社民党の本部のある土地は国有地なのです。それを両党が賃借して、国は貸付料の支払いを受けています(分割納付だそうです)。自民党本部が約3300平米、社会民主党が約1700平米くらいです。平成17年10月から平成18年9月までの賃料が自由民主党が71,499,324円で、社民党が28,546,180円です。


 何故、国有地を両党に貸したかというと、これは東京オリンピックにまで遡ります。国道整備(今の国道246号線)のために、当時の自民党、社民党の敷地からの立ち退きが必要となり、そのための代替地を国が賃借地というかたちで提供したということのようです。当時のやりとりは以下のようなものです。


【昭和36年5月25日衆議院議院運営委員会】

○山崎事務総長 お配りいたしました図面のうち、1、2、3が国会の前庭というふうにお願いいたしまして、4の方は、前庭でありますが、将来図書館の増築用に振り向けます。あと、5、6、7、8につきましては、モーター・プール、車庫、庁舎等に予定をいたしまして、黒い部分がございますが、これは今回道路計画によりまして建物がなくなりますために必要でございますので、上の方が自由民主党の予定地、下の方の4のそばにありますところが社会党の党本部の受け入れ用地というふうに御決定願います。なお、構内の道路は、先の方に矢じるしのついてあるところを国会の構内道路とするというふうに、将来の全体計画を御承認願いたいと思います。(以下略)

○小平委員長 それでは、本件は、ただいま事務総長から説明がありました通りに決定するに御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕



(参考資料)


 上記のやりとりを踏まえて、以下のような法令が作られ、それに基づき国有地が随意契約で両党に賃借されました。


【予算決算及び会計令臨時特例】

第五条  各省各庁の長は、当分の間、法第二十九条の三第五項の規定により、他の法令に定めるもののほか、次に掲げる場合においては、随意契約によることができる。
(略)
十  国会議事堂の周辺地域において都市計画において定められた重要な道路の新設又は改築が行なわれるのに伴い国会に相当数の議席を有する政党が国会における政治活動の便に資するため当該地域に設置している本部の施設を移転する必要が生じた場合において、当該地域において当該移転に係る施設を設置するため必要な土地又は建物を当該政党に売り払い、又は貸し付けるとき
(略)


 まあ、上記の予決令臨時特例については、どう考えても昭和30年代の自民党と社会党の敷地にしか当てはまらないわけでして、今の世の中ではこの条件に当てはまるような場所や政党はありません。こういう法令が可能だった古き良き時代の産物なのかなと思ったりします。まあ、今となってはこんな規定は廃止してもいいと思うのですが、この法令に基づく賃借関係がまだ続いているので、証拠として残しているのだろうと思われます。この時点で30年の契約が成立し、その後1993年頃に再度(今度は借地借家法に基づき)契約が更新されています。


 当時の政情にかんがみれば、予決令臨時特例自体を批判するつもりはありません。ただ、ちょっと賃料が安すぎないかと思います。東京のど真ん中の一等地で、1000坪を年間7000万円の賃料、私はこの分野に詳しくはありませんが、不動産鑑定に詳しい方に聞いてみると「常識的にはあり得ないと思えるけどな。」と話していました。


 これは私だけがそう思っているわけではなく、今の自民党議員(当時は野党)で福田内閣で国家公安委員長を務めた泉信也議員も「特定の政党が国から特別の利益を受けるというのはおかしいのではないか」と指摘しています。


【1994年9月16日参議院決算委員会】
○泉信也君 (略)特定の政党が金銭的にあるいは空間の確保という点で仮に特別の便益を受けているということがあれば、これはやや問題であると私は思っております。この際、国有地を特定政党に貸与している状況等の見直しも必要ではないかと思いますが、総理の御見解はいかがでしょうか。
○国務大臣(村山富市君)(略)政府が政党に対して中立公正であるべきことは当然なことだと思いますから、厳正に対処していきたいというふうに思います。


 賃借料については、平成12年9月以前は近傍類似の民間賃貸実例に比準して算出し、平成12年10月以降は不動産鑑定士の意見価格により算出しているというものです。まあ、どういう不動産鑑定士から算定してもらっているのかは分かりませんが、一つ分かっているのは、この不動産鑑定士も最近までは随意契約で一人の鑑定士から意見書を貰っているだけだったそうです。普通はこういうのって複数の鑑定士から意見聴取するんじゃないかな、随意契約で一人の鑑定士ってのは裏の意図を勘繰られても仕方ないでしょう。

 政府の説明を踏まえつつ、この件を敷衍すると、土地は1000坪で土地価格はおよそ一坪800万円が相場とのことです。とすると、総額80億円の土地ということになります。通常、妥当な賃料を計算するときは借地権があるので、それを勘案すると1/5の底地割合、4/5は借地権の分配で、結果として16億円が賃料計算のときの基礎価格となるそうです。普通は、土地の貸し付けに当たって借地権が発生する場合は権利金を取る慣行があるのですが、貸し付け当初の昭和39年は永田町周辺地域において借地権利金の授受が民間慣行として一般的ではなかったため権利金も全く徴収していません。その16億円をベースとして計算すると、年間7000万円になるそうなのです。


 これは説明しては分かるのですが、時価80億円の土地で地代が7000万円強というと1%未満ですよね。権利金も取っていないのに、地代が低いという印象を持つはずです。これはやはり特別の便宜が図られていると言ってもいいんじゃないですかね。普通、こういうのって相場の3%くらいで設定すると聞いたこともあります(これ自体何の検証もできていませんけど)。


 このブログで党派色が出過ぎるのは避けているのですが、あえて言えば、民主党はこういう便益は受けていません。同じく国会近くにビルの一部を間借りしており、賃料は多分年間7000万円を遙かに超えているでしょう。直接比較対象になり得ないものではありますが、何となく政党間の平等を損なっているという気持ちは拭えません。借地人としての自由民主党の権利は尊重しつつも、賃借料についてはいずれきちんと真っ当な水準に見直すべきだと思いますね。