ソマリアのユスフ暫定政府大統領が「もう我々は首都のモガディシオと(主要都市の)バイドアしか支配していない」みたいなことを正直に認めていました。かなり正直に「もし政府が崩壊したら、あとは各自が自分のために生きていくしかない(注:もう誰の庇護も得られないという趣旨)」ということまで言っています。暫定政府の崩壊が近いかなと思わせます。


 このソマリアという国なのですが、今、国会で海賊対応のための法整備等が議論されようとしているのも、その一因はソマリア沖での海賊への対応があるのですね。そうであれば、日本政府ももうちょっと注目していいはずなのですが、外務省のサイトはお寒いですね。見ていてとても残念になりました。こういうところできちんと情報収集できてないとすれば(やっているのかもしれませんが)、日本外交はいつまで立っても足腰のところが弱いままですから。


 ちなみにソマリア出身の有名人と言えば、デヴィッド・ボウイの奥さんでモデルのイマーンがいます。一昔前は相当に人気のあるモデルでした。あと、トリビアのような話としては、ソマリアの首都のモガディシオはマルコポーロの東方見聞録に出てきますね。そこでは何故か、モガディシオは「島」として形容されていて、それを参照しつつ後世の人がマダガスカル島に辿り着いた際、「これがあのモガディシオなのだ」と勘違いして、そのまま(名前が転化しつつ)「マダガスカル」という名前になったのです。マダガスカルというのは、語源は「モガディシオ」の方から来ているんです(それぞれ音としては転化しているのでしょうが)。


 このソマリア、失敗国家(failed state)の典型と言われます。たしかに歴史的に見て、まともに安定していた時期がありません。かつて、冷戦期にはバーレ大統領の下、比較的安定した時期もありましたが、出身地域への優遇等から崩壊への道を歩みました。バーレ大統領を放逐した(反政府)勢力の間でも反目が続き、1990年代前半にアイディド将軍と言われる軍閥が伸してきました。暫定政府とアイディド将軍の間での紛争が激しくなった時期に国連が介入しましたが、結局国連のPKO部隊はボコボコにやられて撤退させられました。クリントン政権の初期の頃の話でして、米軍でも18名の死者が出て、それ以来、国際社会はソマリアのはトラウマのようなものを抱えています。あのアメリカをコテンパンに追い出すくらいの国なわけです(そもそも、ソマリアでの国連PKOはミッションが明確でなかったという幣があったというのもあるのですが)。


 その後も北部はソマリランド共和国として独立を宣言し、北西部はプントランドとして独立宣言をして、南西部も南西ソマリアとして独立を宣言し、その他にも武装勢力が跋扈してもう国としてはボロボロです。2004年には暫定議会によって、プントランドのアブドゥラヒ・ユスフが暫定大統領になりましたが、これとてソマリランドが参加していないので求心力に欠けるところがありました。


 そういう中、ソマリアの中にイスラム法廷会議という新勢力が伸びてきます。これはイスラムへの回帰を訴え、治安回復と厳格なイスラムの適用をベースとして南部から勢力を拡大しています。これだけ聞くとピンと来る方もいるでしょう。そうです、「タリバーン」とよく似ている印象があります。タリバーンが出てきた時もこんな感じでした。群雄割拠で治安の悪い国を世直し活動ということで、イスラムをベースにした勢力が台頭してくる。治安回復に一定の効果を見せるため、一時的に人気を博する・・・、私はアフガニスタンのタリバーンとソマリアのイスラム法廷会議に非常に類似したものを感じます。


 このイスラム法廷会議、一つ疑問なのは「誰が金を出しているのか?」ということです。正直なところ分かりません。タリバーンのケースではパキスタン軍の情報機関ISIがバックにいることは明明白白だったのですが、今回はよく分かりません。隣国エリトリアだという指摘もあるようですが、あの国はたしかにイスラムではあるものの貧しいです。しかもエチオピアと対峙していることもあり、そこまでソマリアの勢力に入れ込むことは難しいのではないかと思います。私はサウジアラビアあたりが臭いなあと思います(根拠はありませんけど)。あの国にはイスラム主義にシンパシーを持っている王子は多いので、そういう王子系からお金が流れているのかもしれません。例えば、今の皇太子のスルターン国防相は非常にイスラム主義に同情的です。まあ、タリバーン全盛期時代に、タリバーン政権を外交承認していたのはサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートの3ヶ国だったということは想起しておいてもいいでしょう。


 2006年には一旦暫定政府を首都モガディシオから放逐しました。ここで隣国エチオピアが介入してきます。元々ソマリアとエチオピアはオガデン地域をめぐって国境問題を抱えており仲が悪いのですが、ソマリアでイスラム勢力が支配勢力になることに危機感を持ったのでしょう。暫定政府支援の名目で軍事介入しました。実はこの介入、アラブ諸国、アフリカ諸国の中では評判が悪かったのですが、その一方でアメリカはこのエチオピアの動きを支持しました。イスラム主義が蔓延することに危機感を持ったのだろうと思いますね。こういう介入をアメリカが支持することに違和感を持つかもしれませんが、この過程でエチオピアが北朝鮮から武器を輸入したことに対して、アメリカは黙認したという情報もあるようです(私には真偽は確認できません)。さもありなんだと思います。北朝鮮からエチオピアへの武器輸出を黙認せざるを得ないくらい事態が深刻だということです。


 ちょっと逆説的ですが、エチオピア、ひいてはアメリカからの支持を得ている暫定政府は国民の支持を失いました。エチオピアの傀儡だと思われてはいけませんね。たしかに(ソマリランドを除く軍閥が結集した)暫定政府は一旦はイスラム法廷会議を放逐しましたが、私は「まあ、こういう政権は長持ちはしないだろうな。」と思っていました。そんな中、またイスラム法廷会議が南部からどんどん勢力を拡大して、今や暫定政府は風前のともしび状態にも見えます。モガディシオとバイドアしか支配できていないわけですから。エチオピアやアメリカの支援なくしては、イスラム法廷会議による制圧は確実でしょう。


 まあ、若干はしょりましたが、今、ソマリアというところではこんなことが起こっています。日本政府のサイトを見てもあまり情報は出てきません。ただ、ソマリアとイエメン沖で海賊行為が問題になっていて、それが海賊対策新法の作成にまで行こうかというくらいです。もうちょい関心持ってほしいなあと思いますし、もうちょい日本としても発信してほしいと思うところです。外務省等からソマリア情勢について談話とかで情報が流れてきてもいいように思うんですよね。単に「治安の回復と国土保全は大事」みたいな木で鼻をくくったような談話が幾つか見つかりましたが、そんなのは誰も関心を持ちません。


 特にエチオピアの介入については、内政不干渉、イスラム勢力の伸長、テロ対策等、様々なテーマが絡みます。国際法的にはなかなかエチオピアの介入を認めることは難しいのかもしれません。ただ、そういう中、日本としてどういうポジションを取るのか、これは辛くも厳しい判断ですが、こういうのを避けていては日本の対アフリカ政策はいつまでも「公式論」だけで信頼されないものとなってしまいます。


 最初はアフガニスタンのタリバーンにも日本は強い関心を持ちませんでしたが、結局持たざるをえないよう追い込まれました。このソマリア情勢についても似たようなことが起こるのではないかと思っています。とどのところ、アメリカが騒ぎ始めたら日本も関与せざるを得ないわけですから。