先日、末吉興一さんという方が麻生総理の内閣官房参与になっていました。前の北九州市長です。全国的にそれ程名前が売れている方ではないと思うので、「?」と思った方も多いでしょう。担当は「まちづくり」と「都市経営」です。


 何故、末吉前市長がそういうポストに就いたかというと、色々と理由はあります。元々中選挙区時代、麻生総理は北九州市の西半分(今の福岡9区。私のエリアです。)を含む福岡2区という選挙区が地盤だったというのがスタートです。1987年に最初の末吉さんが市長選を行った際の選対本部長が麻生さんでした。その後、選挙区は分かれ、麻生さんの選挙区から北九州は外れましたが関係は良好に推移したのでしょう。更には末吉さんが勇退を決めた後、後継者と任じた方の市長選における選対本部長も麻生さんでした。結局、その選挙では対抗馬だった北橋現市長が当選したため、末吉前市長はどうも居心地が悪かったはずです。そこで当時の麻生外相が外務省参与というかたちで末吉さんを任命し遇しました。たしか「地方の国際交流」みたいなのが担当じゃなかったかと記憶しています。その後、麻生さんの総理就任で内閣官房参与になったというわけです。そう思うと、麻生総理は末吉さんを相当に高く買っていたんだなということが分かります。


 この末吉参与、市長時代には相当やり手で鳴らしていました。元々建設官僚(最後は国土庁局長)からの転身でしたが、北九州市政に相当な足跡を残しました。幾つか思うことを書いておきます。


 まず、末吉市長時代の特徴としては「補助金を持ってくるのが抜群に上手かった」というのが印象的です。補助率の高い補助金をあちこちから持ってきては、それを積み木のように組み合わせて事業を展開していく能力は抜群です。


 沖合の島に石油備蓄基地を誘致して、その立地に伴う交付金を分捕って市の事業に充てるということ構想力には感心しました。沖合の島ですから、日々の生活への影響は殆どありません。北九州市には石油備蓄基地を誘致したことによって得た交付金で買った救急車が走っています。あと、八幡東区に河内という地域がありまして、そこはちょっと町の中心部から離れているので下水道の整備が遅れていました。下水道単体でやろうとすると到底予算が見合いません。ということで、末吉市長は「リゾート型スーパー温泉」みたいなものを河内の地域に作り、そこに国土交通省なのか、農林水産省なのか分かりませんが補助金を持ってきて、温泉用の管と併せて下水道の管を作って、河内地域に下水道を完備させたということを聞いたことがありました。これも「ほーなるほど、賢い」と思わせられました(ただ、その温泉自体は経営が必ずしもスムーズではありませんが)。


 上記の例はあくまでも目立つ例ですが、それ以外にもともかく中央から補助金を上手く持ってきては、市自体の負担を低くして事業を進める力は抜群でした。それと同時に言えることは「市の職員の(行政官としての)能力が高い」ということです。末吉市長は役所の局長感覚で部下をビシバシ鍛えたのだということが、お役所出身の私にはよく分かります。お役所には鬼軍曹系の局長というのがいて、部下が説明に行くとボコスカやりこめてやり直しを命じ、やり直してまた説明に行ったらまたボコスカ論破する・・・というスタイルの方がかつては多かったです。そういう過程を経てお役所では訓練がなされます。私も局長室でよくボコスカやりこめられては、泣きたくなりそうな気分で徹夜して書類を書きなおしたことがありました。多分、末吉市長はその感覚で部下を鍛えたのだと思います。その結果、今の北九州市職員の行政官としての錬度たるや、かなりのものです。気軽な気持ちで議論をふっかけようものなら、コテンパンにお役所の論理でやられてしまいます。中央官庁でそういうのに慣れている私でも手強いと思うわけですから、慣れてない方が対峙すると全く相手にならないと思いますね。


 この補助金を持ってくる能力ですが、「『これだけ失敗案件が多い割には』という条件の下で借金が少ない」と言い換えることもできます。北九州市の借金は1兆4千億円と非常に多いのです。しかし、その借金以上の失敗ハコモノがこの街には溢れています。そういう意味においても、「ああ、補助金を持ってくるのが上手かったのだな」と思わされます。


 そうなのです、この街には失敗したハコモノが非常に多いのです。開業して1年半で潰れた商業施設「コムシティ」、これまたすぐに潰れた(現在は市が直営している)ハブポート「ひびきコンテナターミナル」、維持費すら捻出することができない競輪施設「メディア・ドーム」・・・、枚挙にいとまがありません。コムシティは今でもJR黒崎駅横にひっそりと立っていて、非常に街の雰囲気を暗くしています。ひびきコンテナターミナルは潰れる直前の稼働率が6%、「需要予測をしたのは誰だ!」と憤慨したくもなります。メディアドームは年の維持費が7億円と聞きました。雨の日も盆暮れ正月も毎日約200万円の収益(売り上げではない)を上げないと施設が維持できないのですが、競輪でそんなに収益を上げるのは無理なんじゃないの?と疑問に思うのは私だけではないはずです。


 その他にも数多くの失敗案件を知っていますが、往々にしてこういう失敗案件は4期目、5期目の市政で行われています。私は末吉市長については「3期目までであれば、疑いなく歴史に残る名市長」だったと思いますが、4期目、5期目にやった事業にはかなりの失敗モノが多かったように見えています。やっぱり、4期目くらいになるとモノ申す人も減ったのかな、と(内情は知りませんけど)思いたくもなります。今、麻生福岡県知事が4期目ですが、やっぱり福岡新空港を新宮町という福岡市に隣接した町の沖合に海上空港として作る案件を推進しようとしています。私の眼にはどう考えても採算の合わない代物なのですが、やっぱり4期目くらいになると大型ハコモノでも作ったろうかと思うのですかね。


 末吉新内閣官房参与に対する私の見方は上記のようなものです。さて、その手法がどの程度日本全国の「まちづくり」と「都市経営」に活かされるのか。今の北九州の現状を見ると、期待するところもあり、不安になるところもあります。陳腐な言い方ですが「中央から補助金を持ってくる能力」というのは、国全体を見据える立場となっては、各地方自治体にそのノウハウを伝えることを生業にするわけにもいかないでしょう(皆が同じことをやったのでは意味がないため)。もうちょっと様子を見てみたいと思います。