熊本県の蒲島知事が川辺川ダムを断念することを発表しました。治水、利水、発電という目的で進められてきましたが、利水(農業)が撤退し、発電が撤退し、残るは治水という視点だけでした。費用対効果という意味でも、もうあまり意味がなかったのではないかと思います。豪雨の際洪水が起こりやすく、治水で利益を得るといわれていた地域最大の都市人吉市長が反対していたのも大きかったですね。


 これは蒲島知事の勇断、英断でしょう。数十年に亘って続いてきた川辺川ダム建設は歴代知事が事実上手を付けられなかった案件でした。役所にいた時代、(特定しませんが)この案件で国会議員の集団が役所を怒鳴り上げていたのを見たことがあります。相当に利権が絡んでいるんだなと、その時に感じました。


 利害が絡みすぎて、一気にバシンッとはやれなかった中、次第にダムへの疑問が湧き上がり、断念への機運が高まり、ようやく今回新知事が誕生し断念に至ったというふうに見ています。これまでの知事がダムの将来に対して優柔不断だったとは決して思いません。


 しかし、この話は様々な問題を残してきました。ダムを作る五木村は大半の方が土地収用に応じ、都市部に出るなり、別の地域に移転するなりしてしまいました。人吉市で話を聞いてみると、五木村から移転してきた方の中には生活になじめず、かつ突然得てしまった高額の補償金で身を持ち崩す方も少なくなかったそうです。想像に難くはありません。五木村での生活を断ち切られてしまった方の生活はもう取り戻せません。


 また、この地域は既に川辺川ダムに伴う公共事業にかなり依存する経済になってしまっており、その公共事業がなくなればどうなるのかということもあります。今回の蒲島知事の決断を受けて、五木村村長と村議会は抗議声明を出していました。私はこの声明を「単なる既得権保持の守旧派」といった感じでネガティブに捉える気にはなれません。数十年に亘って国の政策に翻弄されてきた五木村の反応としては当然のことだと思うのです。


 進むも地獄、引くも地獄、蒲島知事はそんな心境だったのではないかと思います。単に決断するだけでは終わらない、長い長い道のりが待っています。熊本県の南半分を占める地域に影響する大プロジェクトが終わり、これからどう歩んでいくのか、国や県は旧住民、現住民にどう対応していくのか、私自身忘れないようにしたいと思っています。