さらば地球よ

旅立つ船は宇宙戦艦ヤマト

宇宙の彼方、イスカンダルへ・・・


 子供心に懐かしい曲です。ところで、この「イスカンダル」、子供の頃は「大マゼラン星雲サンザー太陽系第8番惑星」(何故かはっきりと覚えている)という綺麗な惑星のことだと思っていました。


 このイスカンダルという言葉は、本当は古代マケドニアのアレキサンダー大王に起源があります。ペルシャ語やアラビア語ではアレキサンダーという名前は「イスカンダル」です。アレキサンダー大王は冠詞がついて「アル・イスカンダル」となります。


 そして、アレキサンダー大王がエジプトを征服した際に海辺の町にアレキサンドリアという名前を付けたのですね。その後の東征でもアレキサンダー大王は各地で「アレクサンドリア」に相当する名前を付けた街を作ります。中央アジアで言うと、タジキスタンのホジェント、アフガニスタンのヘラート、バグラム、トルクメニスタンのマリーみたいな今でいう中堅都市は元はすべて「アレキサンドリア」という名前が付いていました(アレキサンドリアの後に地名が付いていることが多い)。


 今でも名前の何処かにアレキサンダーの痕跡が残っているので有名な都市は、エジプトのアレクサンドリア、イラクのイスカンダリーヤ、トルコのイスケンデルンと、あと一つアフガニスタンのカンダハールという町があります。タリバーンの本拠地として名を馳せた、アフガニスタン南部の都市です。イランの名映画監督マフマルバフがアフガン紛争を描いた「カンダハール」という映画を作った際は日本でも結構評判になりました。



 カンダハールという町は、元々は「アラコシア(地方の)アレキサンドリア」という呼ばれ方をしていたようです。他の街はアレキサンドリアという方を落として地方名を都市名としたケースが多いのですが、ここはアレキサンドリアの名前を採用して、それが転化して現在のカンダハールという町になりました。この辺りが東征の最果てになるようです。これを契機に東方にギリシャ文化が伝わり、そのまま東方に流れて正倉院に至るわけですね。


 イスカンダルと聞いたら宇宙戦艦ヤマトを思い出した方、普通の感性です。イスカンダルと聞いてカンダハールを思い出した方、きっとかなり異常です。まあ、普通に考えると紛争地域カンダハールは「宇宙の彼方」くらい縁遠い世界に見えるのでしょうが・・・。