南オセチア独立問題を契機とする、ロシアとグルジアの紛争は停戦の方向で纏まろうとしています。この件については、既にある程度思いを書きましたし、報道も充実しているのであまりしつこいことは避けます。


 ところで、ロシアによるグルジア領内での武力の行使はどのように説明されるのかなと考えてみました。特に武力の行使を容認するような国連決議があるわけではありません。となると、国際法上可能なツールとしては戦時国際法における復仇とか、まあ、あれこれと引っ張ってこれなくもないですが、普通に考えれば「自衛権」というのがスタンダードでしょう。


 ということであれば、ロシアがグルジア国内において自衛権を発揮できるかどうか、ということが問題になります。グルジアに派遣していたCIS平和維持軍への攻撃をもって、それに対する自衛権行使ということが考えられます。といっても、位置づけはCISの平和維持軍ですから、ロシア軍ということではないため、その平和維持軍を守るためのロシアの動きは集団的自衛権ということなのかな、それとも単純に個別的自衛権で位置づけていいのかなと考えます。


 また、ロシアの説明の中には「南オセチア領内にいるロシア人を守る」というものがありました。自国民保護ということで、ロシアは個別的自衛権と位置付けているかもしれません。日本はこういうのを個別的自衛権と呼ばないことが多いですが、必ずしも個別的自衛権はその国の領内で行使されなくてはならないということではありません。


 いずれにせよ、ロシアが今回の行動を正当化できるとすれば「自衛権」が一番筋がいいでしょう。ただ、今回はロシアがあれこれとちょっかいを出していて、それにグルジアがキレたというのが実情ですので、そもそも「自衛権」と呼べるかどうかは判断が分かれるところです。


 ところで、国連憲章には以下のような規定があります。


第51条(自衛権)

この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。・・・・


 自衛権を行使したら、安保理に報告する義務があるんですね。これまでロシアから憲章51条に基づく安保理への何らかの報告がなされているのかなと考えてしまいます。類推すると、憲章51条報告があれば「自衛権」という位置付けが明らかになり、その後の議論が分かりやすくなります(基本的に上記の議論の延長です)。しかし、報告がないということであれば、それは「自衛権」の行使とロシアが考えてないとも受け取れます。その時は何か別の正当化の契機が必要になります。


 そんな悠長な議論を安保理ではしてないことは分かっていますが、あまり法的側面を無視してもいけないと思いますので、あえて提起しました。