ジンバブエに対する国連安保理制裁が、中国、ロシアによる拒否権で否決されました。このテーマ、全然日本では注目されませんが、G8サミットで外国メディアが政治関係で最も注目していたのはこれだと言っても過言ではないでしょう。


 なぜ、こんなにジンバブエという国が注目されるのかというと、直接的には大統領選挙で不正があったことが原因です。あの国の大統領選挙は2回投票制なのですが、第一回目で優位に立ったツァンギライ候補に対して、とてつもなく激しい妨害行為をやって、事実上第2回目の選挙に出ることをできなくさせたということです。多分、自由意思で選挙をやっていたらツァンギライが勝って、現職のムガベは落選していたでしょう。


 これ自体は非難されるべきことです。ただ、あえて付け加えると、他の国にも似たようなことをやっているところは結構あります。単に大統領選挙で不正があっただけで国連安保理制裁を科されるのであれば、恐らくアフリカや中南米では国連安保理制裁に対象となる国がたくさん出てくるでしょう。考えようによっては(欧米に気に入られている)エジプトの大統領選挙の方が筋が悪いです。幾つかの国では、得票率が9割を超えるかたちで現職勝利となる大統領選挙があります。私の感覚では「得票率が8割を超えたら、かなり抑圧・不正の度合いが強い」となっています。私などは少し発想がずるいので「折角9割以上の得票率を確保する不正をするなら、更に不正を進めて7対3くらいで発表しとけばいいのに。その方が見栄えもいいし。」なんてことを冗談交じりに思います。


 私が思うに、この国際社会総出でのジンバブエ批判は、ムガベ政権が英国系ジンバブエ人に厳しく当たったことに端を発しています。長らくジンバブエの肥沃な土地を所有してきた英国系ジンバブエ人(二重国籍が多い)から土地を事実上簒奪したムガベ政権に対して、英国は敵愾心を燃やしてきました。BBCなどではジンバブエ問題が本当に良く取り上げられます。そういう意味において、これだけジンバブエという国が狙い撃ちにされるのは、英国のご機嫌を損ねているという面があります。アフリカ諸国が「ジンバブエけしからんなあ」と思いつつ、非難声明で一致できないのは、欧米の都合で左右されているということへの不信感があるんじゃないかと思います。


 さて、今回のG8サミットでは特別に声明が出されました。ちょっと長いですが引用します。


【声明】

1.我々は、ジンバブエの状況について深刻な懸念を表明した。我々は、ジンバブエ当局による組織的な暴力、妨害及び脅迫の結果、自由で公正な投票に適切な状況が整っていないにもかかわらず、ジンバブエ当局が大統領選挙を強行したことを憂慮する。

2.我々は、ジンバブエ国民の意思を反映しないいかなる政府の正当性も受け入れない。

3.我々は、ジンバブエ当局に対し、迅速かつ平和的に危機を解決するために野党側と協力するよう強く求める。いかなる仲介プロセスも、2008年3月29日の選挙結果を尊重することが重要である。

4.我々は、南部アフリカ開発共同体(SADC)、アフリカ連合(AU)及び汎アフリカ議会の監視員により選挙に関する否定的な報告が行われたこと並びにジンバブエで人命が失われていることに対して深い懸念を表明しているAUを支持する。我々はまた、平和と安定を促進するためにジンバブエの指導者に対し対話を開始することを奨励するというAUの要請を支持する。我々は、SADC及びAUを含む地域機関に対し、地域の仲介プロセスの更なる強化を含め、この危機に対する迅速かつ民主的な解決へ向けた強力な指導力を発揮することを奨励する。

5.我々は、ジンバブエの状況の人道面を深く懸念する。ジンバブエ当局は、ジンバブエの最も脆弱な人々の苦難を防ぐため、人道活動及び完全で非差別的な人道支援へのアクセスの即時再開を認めなければならない。

6.我々は、引き続き状況を注視し、危機の迅速な解決のため、SADC、AU、国連及びその他の関連機関と協力する。我々は、政治、人道、人権及び治安に関する状況について報告を行うとともに、政党間の仲介を前進させるための地域的努力を支援するために、国連事務総長の特使を任命することを勧告する。我々は、とりわけ暴力に対して責任を有する個々人に対する資金的及びその他の措置を導入することを含め、更なる手段をとる。


 まあ、大半は英米あたりが起草したものでしょう。日本はそんなに強い関心を持っていないでしょうから。最後のところを拠り所に今回、国連安保理で決議案が審議されたわけですね(決議案自体はG8サミット前から上程されていましたが)。そして、中国、ロシアが拒否権を投じました。アメリカなどは「ロシアはG8で対ジンバブエ声明に同意したのに、今回の拒否権は理解できない。」とか言っていました。


 ただ、この文章をよく読めば分かるとおり、何処にも「安保理制裁をすることに同意した」とは書いてないですね。ロシアから見ると「今のジンバブエの現状は評価できない。場合によっては種々の措置を取ることも必要かもしれない。ただ、別に安保理制裁に合意したわけではない。種々の措置は、個々の国がやるという方法もある。」ということでしょう。G8の声明をもって、ロシアが安保理制裁に同意したかのような言い方をするのは適当ではないでしょう。


 この件は次回もうちょっと書き足します。