イタリアのベルルスコーニ政権で、ロマ(ジプシーとも呼ばれますが、あれは蔑称だということで避ける傾向にあります)に対して、指紋、写真、宗教、民族等を調査し始めました。ベルルスコーニ政権のマロニ内相が、北イタリアの分離独立を唱える北部同盟(レガ・ノルド)から出ているので、どちらかと言えば北部同盟主導の措置なんだろうと思います。


 ロマと言っても、日本では「ジプシー・キングス」くらいでしか知る機会がないでしょうが、欧州に行くとよく出会います。差別表現にならないように見たままを書くと、褐色の肌、集団移動、非定住、犬を連れていることが多い、タロット占いをしている人が多いといった感じです。東欧に多く住んでいますが、西欧にもかなりいます。総じて生活水準が低いということもあります。流浪の民と言えば、そう言えるでしょう。かつて、犬をたくさん連れたロマに出会ったことがあります。たしかに近寄りがたいものがありました。


 民族学的に有力な説は、インド・ラジャスターン地方が起源ではないかというものです。彼らの話すロマ語はサンスクリットとの関係が明らかにされているので、多分その説が正しいのでしょう。DNA調査をすると、同じく北インド起源のスリランカ人(シンハラ族)と非常に似通っているそうです。


 歴史的に流浪の民として迫害されてきた民族です。帰る国がないという意味において、(当時の)ユダヤ人と共に差別の対象となってきました。過去数百年において定住させようと試みたことがあったのですが、結局あまり上手くいっていません。ヒトラーから絶滅の対象となったという点もユダヤ人と似ています。


 そういう歴史的経緯を持つロマに対して、今回、イタリア政府は指紋、写真、宗教、民族等を把握しようとしています。早速、こういう措置に対してキリスト教団体やユダヤ人団体が反対の意を表明しています。特にユダヤ人団体から見れば、ナチス時代の「黄色い星のワッペン」と重なって見えるでしょう。私も特定の民族・グループに対してのみ、そういった身体チェック、思想調査になるようなことをすることには嫌悪感があります。


 ・・・・、ここまでですと単なるデータの書き連ねなのですが、よく思うのが「ロマ」と言われる人達のアイデンティティって何処にあるんだろう、ということです。パリに住んでいるロマの大半は、自分のことをパリっ子だと思っていないでしょう。フランスに対する親近感もないでしょう。ましてや、欧州に対するアイデンティティすら持っていないでしょう。つまり、よくマスコミでは「欧州統合が進むと共に、若干逆説的ではあるが各地域が自分のアイデンティティを再確認している」みたいなことが言われるのですが、このロマ、何処からも漏れ落ちているような気がするのです。自分が「ロマ」であることの認識はあるでしょうし、誇りもあるでしょうが、それが現在の欧州の姿と(というか国民国家のあり方と)全くかみ合ってないんですね。アフリカにいるトゥアレグ族も似たような感じです。気を付けて書かないと誤解を招きますが、もしイスラエル建国がなければユダヤ人も似たような状況になっていたんじゃないかと思います。


 住んでいる地方にも、国にも、地域(東アジアとか、欧州といった意味での)にもアイデンティティを持っていないと思われる人は、今の日本では想定し難いですね。九州に思い入れを持ち、日本を愛し、アジアの一員であることを誇りに思える自分は幸せなのだ、そう思います。であるが故に、今のイタリア政府の動きには嫌悪感があります。福田総理がベルルスコーニにこのテーマを提起したら、不人気な総理も国際的には「人権派」として好印象を与えると思いますけど・・・、まあ、やらないでしょう。そもそも、そんなテーマは総理には上がらないんですけどね。