アフガニスタン、私にとって思いが色々と深い国です。古代のバクトリア王国、大月氏、クシャーナ朝、ムガール帝国、・・・に思いを馳せると想像がパーッと広がります。


 全然どうでもいいことなのですが、大学時代、塾の先生をやっていた際に教え子から「ムガール帝国の創始者は誰?」と聞かれたことがあります。実は完全に忘れていたいたのですが、ここで知らないというのも沽券に関わるので「ティムール帝国はティムールが打ち立てたんだから、ムガール帝国もムガールだろう」と勝手に結論付けて、「うん、ムガール帝国の初代皇帝はムガールだな」と偉そうに答えたことがあります。その後訂正する機会を逸したので、もしかしたら彼は「ムガール帝国の初代皇帝はムガール」と覚えて減点されたことがあるかもしれません。なお、ムガールの語源は「モンゴル」で、現代英語では「大立者」といった意味で使われます。


 しかし、それにしてもタリバーン政権が崩壊してからというもの、全然上手く行ってないですね。先日、アフガニスタン支援国会合が開催され、ハミード・カルザイ大統領は500億ドル(!)の支援要請をし、これに対して国際社会は200億ドルの約束をしたといった報道がありました。ここで私が思ったのは「それだけおカネを投じるのもいいけど、その前に『で、この国をどうしていきたいのか?』という議論はなされたのだろうか」ということです。


 恐らくは、ハミード・カルザイには殆ど実権はありません。米軍(か何処かの国の軍)のボディーガードがいなければ、2~3日中には暗殺されちゃうんじゃないかと思うくらいです。「首都カブール市長以下」だと友人が揶揄していましたが、そんなに外れてはいないでしょう。


 パキスタンとの国境付近はもう完全に手つかずですね。まあ、パキスタン側もトライバル・エリアなので殆ど中央政府の権限は及んでいません。そもそもが1890年代に人為的にひかれたデュランド・ラインによって、パシュトゥーン人エリアが2分されたという歴史的経緯もあり、アフガニスタン・パキスタン国境地域の民族的自治にあまり中央政府は関与しにくいのです。また、アフガニスタン北東部はヒンドゥークシュ山脈が聳えていて、これまた手がつけられません。あのソ連軍の特殊部隊スベツナズですら、ヒンドゥークシュでの戦いではかなりの打撃を被ったくらいです。


 南部に行けば行ったで、ケシ栽培がかなり復活しています。今年は過去最高の生産量だということです。タリバーンがケシ栽培を抑制していたかどうかというのは争いのあるところですが(私はある程度は抑制への動きをしていたと見ています)、いずれにしても今よりは少なかったということで、今の状況は最悪です。


 2001年10~11月にタリバーン政権が崩壊して、あの国はあまり良くなってないような気がします。首都カブールの一部は良くなったみたいですが、国全体で見ると治安は悪いし、経済も悪い、そんな状況でしょう。最近ではイラクで亡くなる欧米の軍関係者よりも、アフガニスタンで亡くなる軍関係者の方が多いようです。イラクばかりがクローズアップされますが、実は本当に深刻なのはアフガンではないかと思い始めています。


 私はいずれかのタイミングでカルザイ大統領には見切りを付けて、新しい政権構築を考えた方がいいではないかと思っています。200億ドル投じても、現状を前提にする限りは大幅改善はなく、おカネは腐敗した勢力によって何処かに消え、経済の浮揚にはならないでしょう。武装勢力、タリバーン穏健勢力を取り込むかたちでの政権組換えをするのが、中長期的に見た時には現実的な解だと思うわけです。その際、ある程度は強権政治でも過渡的には仕方ないでしょう。今、あの国に一番必要なのは治安だと信じて疑いません。そして、その治安を回復するためには、欧米の人権スタンダードは脇に置くべきでしょう。


 まあ、上記のような方策には同意できない方もいるでしょう。ただ、国際社会が200億ドルという巨額のカネを約束し、かつ日本において現在アフガニスタンへの自衛隊陸上派遣までもを議論しようというのであれば、それ以前の問題として、「そもそも、この国はどうすればよくなるのか」ということを前提条件なしに自由に議論した方がいいと思うんですよね。何となく、本件に関する最近の風潮はズルズルしていて嫌いです。