李明博・韓国新大統領が訪日した際に共同プレス発表が出ました。ザッと読んでみました。正直なところ、やはり中国との共同文書程の緊張感はないなと感じますが、それでもなかなか面白いところはありますので少し論評してみたいと思います。


 盧武鉉大統領は2度訪日しました。最初の訪日の時は、まだ反日色を出す必要もなかった時代でした。その時に出された日韓首脳共同声明 は刺々しさもなく、むしろ日本国内の北朝鮮問題の高まりを相当程度反映した内容になっています(内容もそれなりに北朝鮮に厳しい。これを読むと盧武鉉は、ある時から親北朝鮮シフトを意識的に強めたことが分かる。)。その他の内容も、経済関係(特にFTA)、人的交流ということで、全体として無難な内容です。2度目の訪日は、そもそも盧武鉉は日本に歴史問題を言いにやってきた(言う姿を韓国国内に見せようとした)ようなところがあって、共同で文書を出すことすらできませんでした。首脳会談ではひたすら歴史問題を捲くし立てたそうです。多分、文書を纏めて発する気もなかったのだと思います。


 ということで、今回の李明博訪日ですが、誰もが感じたのは「実務派の大統領」だということでしょう。ビジネスマンかと思うようなその立ち振舞いに、前政権との違いを強く感じました。共同プレス発表 について思ったことを書いておきます。


【全体】

 歴史問題、竹島、日本海といったことは殆どありませんでした。通常、この手の文書では「何が書いていないのか」ということがポイントなのですが、まあ、前回の文書でも歴史とか領土みたいな話はありませんでしたから、そういう話がないこと自体は特段驚くようなことではありません。勿論、竹島や日本海での漁業問題などで厳しいことを言うという選択肢もあり得たと思いますし、通常の日韓関係の中では常に言い続けていくべきことでしょうが、今回は新大統領訪日ですからね。あまりこじれる案件は避けたということなのでしょう。

 あと、盧武鉉色が完全に払拭されているような気がします。理由を聞かれると困るのですが、なんとなく「あの時代のことは忘れよう」というトーンを感じるのは、私の気のせいなのでしょうかね。


【2.(3)について】

 ここは李明博大統領のスタイルが最もよく出たところでして、韓国から日本への留学については素材産業、部品産業関連だということを強調しています。これは既に報道されていますが、日韓FTAについて、韓国側に「関税を撤廃したら、日本の素材産業、部品産業に韓国が席巻されてしまうのではないか」という懸念があります。ただ、そこで貿易障壁を維持して保護政策を取るということではなく、日本の技術を取りに行くという攻めの姿勢を示していること、これが李明博大統領のスタイルなんだと感じました。まあ、日本は技術流出については気を付けなくてはなりませんが、合法的に進む限りでは協力的であって良いのだろうと思います。


【2.(7)について】

 ここだけが、主語が「両首脳は、」となっていませんね。つまりは外国人参政権については意見が違ったということです。ただ、ここでの福田総理の答え方というのも微妙だと思います。行政として何らかのアクションを取るつもりが全く無くて、議員立法で進むのならそれはそれでいいんでないか、まあ、そんな感じです。行政のイニシァティブという視点で見れば、ほぼゼロ回答というか無関心ということです。まあ、その他人事のようなところが福田総理らしいとも言えますが・・・。


【3.(3)について】

 ちょっと「おやっ?」と思ったのは、「日韓経済連携協定/自由貿易協定が両国の経済関係の強化に重要な役割を果たす『であろう』という認識」というところです。何故「果たすという認識」ではないのか、日韓のどちらかに「もしかしたら、日韓FTAは重要な役割を果たさないかもしれないじゃないか」という主張をした御仁がいるんじゃないか、そんなことを窺わせます。「某省かな?」と邪推してしまいたくなる部分です。


【4.(2)について】

「福田総理より、日朝平壌宣言に則って、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して日朝国交正常化を早期に実現するとの方針を説明し、これに対し、李大統領は理解と支持を表明した。」というのは、2003年の共同声明にも似たような表現はありましたし、基本的に定型句です。ただ、過去数年の盧武鉉政権の親北朝鮮シフトを見てきたものとしては、「ああ、また韓国は以前のポジションに戻ったな」と安心させる部分ではあります。


【5.(1)について】

 文章としては最低の出来です。というのも、読み進めていっても、最初は何のことが書いてあるのかがよく分からないのです。最後になって「ああ、たぶん前段でも地球温暖化のことが言いたかったのだな」ということが分かりますが、それにしても首脳間の文書でこの出来の悪さは問題ですね。


【5.(8)について】

 韓国が「少しでも日本の常任理事国入りにつながる個所は拒んだ」ことが明らかですね。まず、「国連改革の継続」については約束しています。(韓国から出した)潘基文国連事務総長については支持ということで纏めています。最後の国連改革問題では、対話と協力を強化することで一致ではなく、間に「努力」という言葉が入っています。ここは韓国側に逃げられたということなのだろうと思います。国連改革での協力すら努力規定に落とされるというのは、相当韓国が嫌がっていることの表れでしょう。


 最後に、全体として「中国の存在感」を強く感じました。勿論、米国の存在感も強いのですが、非常に多くの項目で中国の存在を前提に日韓が話をしているという構図ですね。そういう時代なんですね、現代は。ダラダラ書きましたが、少しこだわってみるとこんな風に読めてしまうという一例でした。