平素から厳しくも適切なコメントを頂いている有馬温泉さん及び左花朽行さんから日銀総裁の件についてご指摘がありました。ちょっと口はぼったいところがあるかもしれませんが、私の思いを書いておきたいと思います。


 まず、私が昨年の後半から常に感じていたことは「財務省のポストに対する執念は凄い。」ということです。三代前まではずっとたすき掛け人事だったのが、速水総裁、福井総裁と非財務省で来たことに対する焦燥感は大きかったのだなあと感じます。これが外務省なら、まずここまでの頑張りを示すことはないでしょう。「役人道」としてはあっぱれと感心すらしてしまいます。


 次に思ったのは、「そんなに人材がいないの?」ということです。日本銀行生え抜きであっても、民間出身であってもいいのですが、そこまで特定の人に拘泥する必要があったのかなと思わなくはありません。日銀プロパーの人から見て、今の状況がどう見えているのかは関心があります。日銀プロパーの人が内心忸怩たるものがないとすれば、それはそれで問題だと思います。仮に「どうせ5年後は日銀プロパーに戻ってくるポストなんだから、ここで財務省とガチンコはやらない方がいい。」と思っているのであれば、かなり残念です。


 あと「福田さんは官僚好きだねぇ」というのが率直な感想です。私もかつて何度かブリーフに行ったことがあるのですが、中央のお役人との親和性は高いです。武藤前副総裁も、田波国際協力銀行総裁も事務次官経験者です。財務省が官邸に持っていった当初案は「渡辺元財務官」だったと報じられています。多分、資質としては「国際関係担当次官」である財務官の方が日銀総裁には適切だったと思います。そういう中、あえて、「次官相当」の財務官ではなく、事務次官に拘ったことには私も驚きました。


 そういうことで、私は「何もそこまで財務事務次官経験者に拘泥しなくてもいいんじゃないか。財務省のくびきから日銀を真に解き放ってあげることも重要だ。」というのが正直なところです。


 最後に一言だけ付言します。今の欧州中央銀行総裁のジャン・クロード・トリシェはフランス財務省の検査官、バラデュール財務相(シラク内閣、1986-88)の官房長、理財局長を歴任しました。初代総裁のジム・ドイセンベルグはオランダの財務大臣経験者でした。ただ、各国の財務省をめぐる力学が違うので一緒にできませんけどね。他の国で捉える財金分離という言葉と、大蔵省―財務省が官界で圧倒的に伸している日本における財金分離という言葉は同じ感覚では比較できないとは思います。