ちょっと大上段に構えましたが、なかなか渋いテーマを取り上げます。


 コソボがセルビアから独立を宣言して、欧米諸国や日本は承認に方向に動いています。ただ、バスクを抱えるスペイン、台湾、チベット、ウィグルを抱える中国なんてのは反対しています。その中でもセルビアに対して影響力を有するロシアがかなり強硬に反対していました。


 この辺りまではある程度織り込み済みなのでしょう。今、ロシアがコソボ独立に反対している姿勢を見ていく時に、実は注目しておく必要がある国があります。それはグルジアです。「なんで、コソボの問題を考える時に、離れたグルジアに注目する必要があるのか?」と普通なら思うでしょう。これは非常に面白いテーマなのです。


 今、グルジアとロシアは関係が悪く、ロシアはグルジア揺さぶりのため色々な手を打っています。その一つが、グルジアのアブハジア、南オセチアという2つの地域で分離独立運動を促していることです。これを「民族自決」と呼ぶかどうかは判断が分かれますが、ともかく、ロシアはグルジア国内で分離独立運動を促してきました。ここがコソボ問題と繋がります。


 つまり、コソボの独立に反対なら、グルジアで民族自決を促すような行為は一貫性がないではないか、そういうことですね。コソボからすれば「あんた、グルジアではアブハジアや南オセチアの民族自決を促してるんだろ。じゃあ、うちの独立にも諸手を挙げて賛成すべきじゃないか。」という気持ちになるでしょう。


 そんな中、最近、ロシアがアブハジアに対して1996年来科していた禁輸措置を解除しました。これはロシアや旧ソ連諸国がまだ不安定な時期、独立運動が盛んになっていたアブハジアに対して、それを止めさせるために禁輸措置を講じたものでした。当時のグルジアの政権は、親ロシアのシュヴァルナッゼ政権だったので、ロシアとしてもグルジア内の分離独立運動を抑える必要があったわけです。


 この禁輸解除については色々な見方があります。2014年冬季オリンピック開催地のソチの建設を進めるためには、近隣のアブハジアから原料(砂利とか)を輸入する必要があったということもあるでしょう。ただ、ロシアがアブハジアの分離独立運動を後押しし、そして、反ロシアのサーカシヴィリ政権を揺さぶるということがあるのかなとも思います。最近、アブハジアは独立宣言をして、国際社会に対して承認を求める呼びかけを行っています。


 こうやって見ていくと、ロシアはコソボ独立阻止についてはある程度諦めて、その代り「コソボが独立していくなら、親西欧のグルジア内のアブハジアが独立することにも反対する理由はなかろう。」という論理立てで動いていくと見ることもできます。


 ただ、逆に、ロシアはまだコソボ独立阻止を(少なくとも建前上は)諦めたわけではなく、アブハジアについても、コソボに対する姿勢との一貫性を保つためにも、むしろ独走を抑えるべく悩んでいるという見方もあります。実際、ロシアは「グルジアの領土的一体性は尊重する」というメッセージを繰り返し発しています。


 いずれにせよ、今後、コソボ独立に対して、ロシアがどういう姿勢を取っていくかを見ていく時には、アブハジアに対する立場とリンクしていることは押さえておく必要があります。


 ロシアは潜在的に分離独立を志向する地域を結構抱えていて、コソボ独立のような動きをおいそれとは認めないんじゃないかなと思うので、アブハジアの件もそう軽々に独立推進に動けないと見るのがスタンダードじゃないかと私は思います。仮にコソボ独立を事実上追認し、アブハジアの独立を推進する時、次に波及するのはチェチェンでしょう。強権で抑え込んだチェチェンに再度火がつくと、その厄介さはシャレになりません。モスクワの地下鉄あたりでドカンと爆破事件が起こることだってあり得ます。そうなれば、ロシア国内にどんどん連鎖反応が起きていくはずです。


 ただ、このあたりはまだハッキリとしたメッセージがロシア側から伝わってきていないですね。特に対アブハジア禁輸解除がどういう意味合いを持つのか、まだ、私には分からないところがあります。渋いテーマですが、ちょっと注目してみてください。