共産党が農業再生プランを発表しました。プラン全体についてはそれなりに思いがあるのですが、ちょっと「おやっ」と思った部分がありました。


【抜粋部分】
(3)ミニマムアクセス米の義務的輸入を中止する
 わが国はいま年間77万トンもの米を輸入しています。これはわが国の年間消費量の8・4%に相当します。この輸入米(ミニマムアクセス米)が膨大な在庫となって国内産米を圧迫し、米価下落の大きな要因となっています。政府は、輸入があたかもWTO農業協定上の「義務」であるかのようにいいますが、本来、輸入は義務ではなく、“輸入したい人にはその機会を提供せよ”というものにすぎません(99年11月の政府答弁)。義務的輸入は中止します。


 なかなか、ここは渋いテーマを提供しています。昔、一度書いたのですが、少し解説します。


 日本は1986~93年のGATTウルグアイラウンド合意で、最終的にコメの市場開放に合意しました。途中の過程は省略しますが、現在の制度は以下のような感じです。


(1)国による一元輸入
(2)一元輸入分の数量設定(精米で76.7万トン)
(3)一元輸入分について差額徴収(キロ292円まで)
(4)一元輸入分は食卓に上らないよう煎餅のような加工用に使う
(5)一元輸入分を超える分は高関税(キロ341円)


 ただ、実はウルグアイラウンド合意には上記のようなことがすべて規定されているわけではありません。合意の中に書き込んであることは(1)、(2)の一部、(5)だけです。76.7万トンというのは、「それだけは市場にアクセスする機会を他国に提供しなさい」ということが書いてあるだけです。何処にも「76.7万トンは義務的に輸入しなさい」なんてことは書いてありません。そういう意味では共産党の「輸入義務はない。あくまでも機会提供だけだ。」というのは正しいのです。


 しかし、平成6年05月27日の衆議院予算委員会でこういう政府統一見解が発表されております。現時点に至るまで有効だろうと思います。


【ウルグァイ・ラウンド農業協定におけるコメのミニマム・アクセス機会の法的性格に関する政府統一見解】
一、コメについて、ウルグァイ・ラウンド農業協定に基づきミニマム・アクセス機会を設定する場合、我が国が負う法的義務の内容は、コメの国内消費量の一定割合の数量について輸入機会を提供することである。
二、但し、コメは国家貿易品目として国が輸入を行う立場にあることから、ミニマム・アクセス機会を設定すれば、通常の場合には、当該数量の輸入を行うべきものと考えている。
三、しかし、我が国が輸入しようとしても、輸出国が凶作で輸出余力が無い等客観的に輸入が困難な状況もありえないわけではなく、かかる例外的なケースにおいて、現実に輸入される数量がミニマム・アクセス機会として設定される数量に満たなかったとしても、法的義務違反が生ずるものではないと理解している。


 ちょっと読みにくいのですが、ポイントは「二、」です。ここで言いたいのは「義務じゃないけど、日本は国が一元的に輸入するという制度を取っているから、機会の提供イコール全量輸入なのである。」ということです。表向きの理由は、市場原理とは切り離されたかたちで国が輸入するのだから、純粋な意味で市場原理に基づく機会の提供というのは無理、だから全部輸入することにしたという感じに読めます。しかし、実は中国は結構国家貿易品目が多いのですが、アクセス機会分を全量輸入などしていません。中国の言い分は「需要もないのになぜ輸入しなくてはいけないのか?」ということでしょう。


 日本が全量輸入していることの背景には、実は「国内に外国産米に対する需要がある」ということへのおそれがあるからだと思います。その理由は「内外価格差が大きい」ということです。内外価格差が大きい中、国が一元輸入するのに輸入量が伸びなければ、実質的にアクセスを提供していないと非難の対象になるでしょう。なので、国が完全に管理するかたちで全量を輸入するという方策を採ったということです。もし、内外価格差があまりない状態であれば、外国産米への需要は(数量が足らないといった事情でもない限り)大してないでしょうから、結局国による全量輸入などという政策を採る必要もないのです(これが中国です。)。


 ただし、日本が輸入している外国産米は加工用に回されることが多いです。国が一元的に輸入していて、できるだけ主食用の米が入ってこないようにしているのですね。もっと言うと、国内に需要のない米をたくさん輸入しては在庫を積み上げて困っているというのが現状です。仮にここで本当の意味で共産党の言うような「アクセス機会」の提供をしたら、主食用の米が入ってきて更に値崩れを起こすというのが本音でしょう。


 ということで、現在の内外価格差が大きい中、共産党が主張するように国による一元的な全量輸入を止める場合、真の意味でアクセス機会を提供しなくてはならなくなります。その場合、多分主食用のカリフォルニア米とかがどんどん入ってきて、かえって国産米の値崩れを招きかねないでしょうね。共産党も、そのあたりを考えていないとは思えないのですが・・・。


 ただ、私は今の米の輸入体制が永続的にやっていけるとは思えません。国による一元的な輸入、輸入後は高額のマークアップをかけて国内に売り渡す、アクセス分以上は高関税で守る、こういったトリッキーな体制はウルグアイラウンド後の厳しい政治情勢の中ではやむを得なかったと思いますが、ずっとこれからもこの体制で走っていけるかというと「ちょっと難しいんじゃないかな」と思います。かといって、私に妙案があるわけではないのが辛いところです。もうちょっと内外価格差が縮まってくれば、色々と打てる策も出てきそうですから、それまで待つということなんですかねぇ。