ガソリンの暫定税率関係で、他の税金の暫定措置法系のものがあおりを食うことが少しずつクローズアップされつつあります。品目として圧倒的に多いのは農林水産品。なんで農林水産関係が多いのかはどうもよく分からないところがあるのですが、何となく農水議員や農林水産関係団体との関係で恒久法でやれない理由があるような気がしてなりません(実際の影響は恒久法であろうが、暫定措置法であっても殆ど変化ないのですが精神的な問題として)。


 ところで、先日、農林水産省の白須次官が「ガソリン税の暫定税率の関係で関税暫定措置法が更新されなければ、一部品目でWTO協定違反になる可能性がある」と記者会見で言っていました。白須次官としては「だから、暫定措置法はガソリンの暫定税率も含め一体である以上、これを通してもらわないと問題がある」ということで少しでも政権与党への援護射撃をしたということなのかなと思います。


 WTO協定が締結されるまでは、日本には関税化しておらず輸入をしていなかったり、輸入していても完全に国家が統制している品目がありました。1995年に発効したWTO協定では農産品はすべて関税化して輸入への道を開くことが求められました。かつ、WTO協定で初めて関税化する品目については関税割当を設定して、低関税での輸入枠を設けることが決められました。具体的には乳製品、脱脂粉乳、でんぷん、落花生なんかが該当します。今回のポイントはここです。


 つまり、WTO協定という条約を国内で実施するために法体制整備をしなくてはならなかったのですが、上記の品目に低関税輸入枠としての関税割当を設定する法律が関税暫定措置法だったということなのですね。この暫定措置法の期限がガソリン税同様3月31日で切れるのです。


 しかし、私はちょっと「?」と思いました。WTO協定というのは日本が国際的に締結した国際約束です。しかも、これは「批准」という天皇陛下が行う国事行為を経る、条約の中でも重みのある国際約束です。その協定を実施する国内での法整備が暫定措置法という、更新が必要となる時限立法であるというのは、本当に条約の国内実施体制として適切なのかと思うわけです。とどのところ「もしかしたら暫定措置法が更新されない可能性がある」ということは考慮してないわけです。それは政権の枠組み、政情、関税をめぐる様々な動向などは考慮せずに、「現在の政権が続く限りはこの暫定措置法は当然成立するのだから、協定の担保法が暫定措置法でも問題ない」という判断があるわけです。(私はこの関税化品目の低関税輸入枠は維持しなくてはならないと思っていますが、法理論上の問題として)それはおかしいのではないかと思うのです。農林水産省として、現在の自民党中心の政権が当然のようにずっと続いていくということを前提に制度を作っていると言われても仕方がないことです。


 繰り返しになりますが、私は農産品についての低関税輸入枠を維持し、WTO協定をきちんと実施していくべきだと思っています。しかし、そうであればその実施体制は本来恒久法でやるべきではないかと思うのです。白須次官の「WTO協定違反になる可能性がある」という発言は、「そもそも、そんな体制でWTO協定を実施していることが問題なんじゃないの?」と言わざるを得ません。そういう意味でちょっと迂闊な発言じゃないかなと感じます。国際法の理論上もなかなか面白いテーマだと思うんですよね。法の番人たる内閣法制局はこの件についてどう考えているのかも興味があります。


 もし私が国会議員として質問主意書を出せる立場にあるのなら「国際約束の国内実施を暫定措置法で行っているケースをすべて列挙ありたい」、「国際約束の国内実施が、そのような暫定的な法律で担保されていることは、国際約束の誠実な実施という観点から問題はないのか」、「国際約束の国内実施を担保する暫定措置法が失効した際、国際約束違反になることを潜在的に孕むのは法体制として不安定であると考えないか」ということを聞いてみたいと思ったりします。


 かなりオタクなテーマでした。実質的にはあまり意味のない内容です。ただ、法律を研究している人には渋めの論点を投げかけたつもりです。