そろそろ、日本とオーストラリアとの自由貿易協定交渉が本格的に始まります。このことについては過去にも一回書きました(ココ )。重複が多いのですが思ったことを書いておきます。


 まず、オーストラリアは最初にかなり過大な要求をしてくるでしょう。農産品の関税を全部撤廃みたいなトンデモない要求から来ると見ていいと思います。本来、国際貿易交渉というのはそんなものなのです。大きめに打ち出して、上手く纏める、これが基本なのですが、まず間違いなく日本国内では「オーストラリアが関税全撤廃を要求」みたいな記事が踊り、関係者の激烈な反応が紙面を賑わせます。ああいう過大な要求には適当にたかを括って無視しておくのが一番だと私は思っています。


 そして、日本も自動車関税の完全撤廃とか、まあ、そういうタマでどんどんオーストラリアを叩いていけばいいと思います。オーストラリアという国は、あまり工業品での競争力が強くありません。自国の人口が少なく、かつ市場(東南アジア)にも少し距離があるためです。自動車の関税はたしか10%を超えていたと思います。日本の農産品の関税に比すれば大したことないと思うかもしれませんが、結構オーストラリアにはこの10%強の関税は死活的な意味合いを持っています。オーストラリアが強い農林水産業や鉱業はあまり雇用吸収力が高くないため、相対的に弱い自動車産業を保護することが自国の若年層の雇用確保のために必要なのです。


 しかし、こういう省庁を跨ぐ交渉戦略というのは本当に日本の苦手にするところです。何と言えばいいのか難しいのですが、交渉というのは一つであるべきなのに、日本は何でも外国と交渉する時に縦割りをやります。農産品は農林水産省、鉱工業品は経済産業省・・・くらいならまだマシな方で、最近では人の移動(サービス貿易)で厚生労働省(看護士関係)みたいな分野も入ってきます。それに応じて、自由民主党の担当部会もどんどん分裂していきます。農林水産部会でも、経済産業部会でも、厚生労働部会でも何処でも同じ交渉の一部分だけを取り上げて喧喧諤諤議論をしているわけです。そこまで行くともう交渉全体で出し入れをしながら切ったはったのやり取りをすることは不可能です。


 国際貿易交渉にご関心のある方は、多分日本が「よし農産品で譲る代わりに、自動車の関税でもう少しそっちも譲歩しろ」みたいなことをやっていると思っているでしょう。実態はそんなに格好良くないのですね。各分野で塹壕に篭もって、そして撃破されていくという、太平洋戦争での日本軍の姿と似通ったものを感じます。もっと悪いケースになると、経済産業省が所管している品目に対してアメリカが不公正な貿易措置を取っていたとします。それをWTOの裁判制度で戦って、日本が勝ったとしましょう。その場合、日本は他品目で(アメリカからの輸入に対する)制裁措置のようなことをすることが認められるのですが、その時農林水産省はこう言います、「制裁措置を打つ時はうち(の所管品目)を巻き込まないでくださいね。経済産業省さんの所管している分野の中だけで完結させてください。」。日本全体で一丸となって戦うこともないし、日本全体で利益のバランスを図ることもなかなかありません。


 しかも、WTOであればどんな分野であっても最後はジュネーブにいる大使が前面に出ることになるので最終的にはそこで物事を集約しようという力が幾ばくかは働きますが、FTAになるとそういうキーパーソンがいないので各省庁が勝手に自己のルートで纏めて来たものを最後にガチャンとホッチキスで止めるようなことになりがちです(実態はもっと複雑ですが、あくまでも印象論として)。まあ、こういうことをやっている内は、日本は交渉はダメですね。私がオーストラリアの交渉官なら、日本が守りたいと思う分野で最初にガツンと高いハードルの要求を出します。できれば、所管する省庁毎に高いハードルを突きつけます。そうすれば、今の日本ではそれぞれの省庁が騒いで、危機感をもって、個々のルートで前面に出ようとしてきます。そこまで来れば、後は個別撃破していけばいいのです。ともかく、全体で交渉しないように務めますね。相互に連携なきまま、どんどん突き破られて、結果を見てみたら完全に日本が負けていたということになります。


 私はアメリカ型のUSTRが最善とはあまり思わないのですが、ただ、上記のような現状を見ればやっぱり国際貿易交渉の窓口はUSTR的に一元化したほうがいいのかなと思ったりします。