高級ラーメン用に使われる特別な小麦の品薄感が強まっているそうです。豪州産のプライムハードという種類だそうです。やはり原因はここ数年豪州で続いている旱魃のようです。やっぱり、地球温暖化による気候変動は私達の食卓を直撃するようになっています。在庫がかなり少なくなっていて、このままでは今年前半は高級ラーメンの質に影響しそうです。


 ・・・・と、ここまでですと報道の受け売りなのですが、この報道の中で「おやっ?」と思ったことがありました。最近までプライムハードの輸入は農林水産省が一元的にやっていたのですが、SBS方式に切り替えたことが在庫の品薄感に拍車をかけたという点です。


 ここは少しテクニカルですので、もうちょっと噛み砕きます。農林水産省が一元的に輸入している間は、WTO協定や実需を勘案して決められた数量を農水省が管理輸入して、一定の条件で業者に配分していくということでした。ただ、これだと、輸入するのはあくまでも農水省なので、最終ユーザーが本当に欲しい品種の確保が必ずしも保障されないということで導入されたのがSBS方式です。これは生産者とユーザーが直接交渉して、纏まったら農水省に行って申請する(そして、関税等を徴収される)ということだけです。国家貿易というかたちでの農水省の関与を確保しつつも、その度合いを最大限下げ、実需をできるだけ反映させる方式ということです。


 普通に考えれば、農水省による一元輸入はコントロールが利く、SBSは実需を反映しやすいということで、SBS方式になればどんどん人気のある品種が輸入されていくようになると考えたくなります。実際にコメの輸入に関しては、農水省はSBS方式の導入を限定的にしようとしています。今はコメの輸入に関しては国内需要があまりない細長いパサパサしたコメを一元輸入していますが、仮に全量SBS方式が適用されると多分国産米に近いコメに需要が集中するでしょう。その時、国産米への価格圧力がかかるので、それを避けるためにSBS方式をあまり積極的にはやっていません(それはそれで、実需を反映しないコメの輸入が行われているということで問題なのですが)。


 いずれにせよ、実需を反映するSBS方式をプライムハードに導入したら、在庫に品薄感が出たというのは、常識的に考えれば「ユーザーが自由に生産者に接触して買い付ける約束を取り付ければいいのだから品薄感ということにはなりにくいんじゃないか」と思いたくなります。何故、こういう想定せざる結末になるのか、よく考えてみました。小麦のように市場が大きいと生産者も巨大です。豪州では輸出はAWB(Australia Wheat Board)という公社が一元的にやっているので尚更です。多分、「高級ラーメン用」みたいな非常に特殊な個々のユーザーとやり取りするのが、生産者・輸出者側にとっても、ユーザー側にとっても非常に厄介なのではないかと推察されるわけです。


 農水省が一元輸入している時の方が価格等に関する交渉力があって、豪州側からしてもやりやすかったのでしょうね。実需をできるだけ反映させたいSBS方式導入によって、需要が細分化されてしまい、その分生産者とユーザーの距離が遠くなってしまったことが、結果として輸入する際の障壁になり在庫の品薄感に繋がった・・・、まあ、これは私の推測ですが、ちょっと逆説的だよなと感じました。


 小麦のように(コメと違って)国内産にも一定の限界があって、農林水産省の関与が輸入制限を強く志向しておらず、かつ、国際市場が非常に大きいのであれば、無理をして需要を細分化するSBS方式の導入は必要ないのかもしれないな、なんてことを思いました。ただし、そのためには一元輸入する農林水産省が国内ユーザーの実需をしっかりと読み取る能力を養うことが必要ですけど。


 テクニカルな内容になりました。関心のない方には全く面白くなかったでしょう。ただ、最後の最後はラーメンの話です。ちょっと身近に感じていただけると嬉しいです。