福田総理訪中の際、東シナ海の大陸棚開発の関係は解決に至りませんでした。一定の進展があったことを伺わせる声明が出ていたので、ある程度、意見の一致を見たのでしょう。


 報道では今、中国が日中中間線(日本と中国との陸地から等距離の位置にある地点)の若干中国側で開発している「春暁ガス田」の共同開発について纏まりがつかないみたいなことが書いてありました。

 この春暁ガス田については、中川経済産業大臣のストロー理論が有名で、日中中間線を跨ぐガス田では中国側で資源を吸い上げると日本側の分まで吸い上げられてしまうということのようです。ちょっと記憶が定かではないのですが、1990年8月のイラクによるクウェート侵攻の前にも、サッダームが似たようなことを言っていたような気がします(つまり、イラクとクウェートに跨る油田なのにクウェート側がガンガン開発されてイラクの石油が簒奪されているみたいな主張)。ただ、石油開発に詳しい人に聞いてみると「そういう事態はちょっと想定しにくいのですが」ということらしいです。ガス、石油というとかなり流動性のある物体が地中にあるかのような印象がありますが、その実は地中に染み込むようなかたちでドロドロの原油やガスがあるだけなのでストロー理論というのは成立しないのではないかという話を聞かされました(但し、技術的なことは私には分かりません)。


 あと、「春暁ガス田の共同開発の話が纏まらない」ということですが、私はちょっとマスコミとは捉え方が違います。今、話題になっている「春暁ガス田」というのはそんなに大きなガス田ではありません。日本政府は本当にその春暁ガス田自体への参入を主張しているのかな?と疑問になります。仮にそういう主張をしている場合、その背景にあるのはストロー理論に近いものです。しかし、仮に技術的にストロー理論が論駁されてしまうと、日本にできることは春暁ガス田のうち、中間線から日本側で似たような開発行為をすることになります(中国側は沖縄トラフまでの大陸棚を主張しているので、それにも反対するでしょうが)。非常に縮小均衡の考え方です。


 ここで頭を整理する必要があります。日本が春暁ガス田開発に反対することができる論拠は大きく言って2つです。このどちらを論拠として挙げているかで交渉ポジションは全然違います。


1.日中中間線付近でやっていて、ストロー理論で持っていくことがけしからん。
2.まだ、大陸棚画定交渉が終わっていないのに結果を予断することがけしからん。


 私は、ストロー理論に依拠して春暁ガス田単体での競い合いをすることは止めておいたほうがいいと思っています(ここだけを切り取ると弱気のことを言っているように聞こえるでしょうがそうではありません。)。既にある程度の開発が中国側で進んでおり、後発の日本が取れるものが少ないように思うのです。むしろ、日中双方にとって平等な(中間線に跨る)共同開発海域みたいなものを設けて、その海域の中に現在判明しているガス田、油田の中で利益の分配をするのが現実的であろうと思うわけです。共同開発水域の中で春暁相当のガス田は日本が確保する、そして、春暁とその(日本が取る)ガス田を除いた残りのガス田、油田を平等に分ける、まあ、実際の交渉も報道されているところとは異なり、そんな感じのことを話しているはずです。春暁ガス田を巡って、その中にオレも噛ませろみたいな交渉をやってはいないような気がしてなりません。


 何度か、このブログに書きましたが、この交渉で日本の外務省と資源エネルギー庁はかなり頑張っています。日中中間線を保持するラインを崩すことなく頑張っているように聞こえてきます。これは国際法上はちょっと立場が弱いのです(あまり書きませんが、中国側は基線が大陸であり、日本側は島嶼のため、通常は中間線から日本側に少しずらした線あたりを境界線とする決着方法が主流なのですね。)。そんな中、日本政府の努力は賞賛に値すると言っていいと思います。仮に上記の私の推察が正しいのであれば、共同開発水域の設定で譲らず、水域内部での利益配分でも譲らなければ、(交渉は難航するでしょうが)100点満点で120点です。


 もっと言えば、尖閣諸島を基線とする海域の扱いで譲ってしまえば、これは他でどんなに頑張っても0点です。尖閣諸島は日本の領土であるという一線を少しでも譲るようなことはあってはなりません。福田総理はどうも親中派らしいのですが、尖閣諸島の扱いで譲るようなことがあれば、これは総辞職どころの話ではないでしょう。まだまだ妥結は先でしょうが、テクニカルな話がうずめく中、東シナ海大陸棚問題における尖閣諸島の扱いに私達はきちんと目配りをしなくてはなりません。


(ちょっと話が飛びますが、尖閣諸島は沖縄返還の際に米国から日本に返還された領土に含まれることが条約(だったか、付属文書だったか)に明記されています。つまり、そこから類推できるのは1972年までは米国が支配していた地域であり、米国はそれを日本に返還したということですから、尖閣諸島が日本領であることは米国もコミットできるはずの話だということです。誰かこのネタを真剣に米側にぶつけてはくれんだろうか、文書で残っているのでイエス・ノーを言わせやすいのだがと時々思います。)


 新年早々のオタク・ネタでした。筆力不足から理解しやすくはなっていませんが、こういうのがお好きな方もおられるかと思います。異論、反論大歓迎です。