ベナズィール・ブット元パキスタン首相が暗殺されました。今、「民主化」で動揺しているパキスタンにとっては非常に残念なことです。背後関係は全く分かりませんが、イスラム主義を標榜する団体が声明を出したりしていますので、そういうことなのかもしれません。ただ、パキスタンは地域主義が非常に強い国で、例えばブット元首相は南部のシンド州をバックにしていますし、もう一人の野党指導者ナワズ・シャリフはパンジャブがバックになっています。どうもパキスタンという国は複雑なので、今は北西辺境州の武装司令官ルートが探られているようですが、本当に誰がやったのかは私には分かりません。


 揚げ足を取るようなのですが、今回の日本政府の対応はちょっと残念でした。およそ全ての主要国が大統領・首相級でテロ行為を非難する声明を出しているのですが、日本は高村外相談話でした。こういうのはメッセージさえ伝わればいいのではなく、誰が出したかというのが極めて重要です。今、これだけ国内が「テロ対策特措法」と騒いでいる中、正にその最前線で民主化に揺れるパキスタンに激震を走らせた今回の暗殺事件に福田総理が声明を出さないというのも変な話です。「野党指導者だから、過去の例と照らし合わせても総理談話では釣り合いが取れない」といった横並びの発想があるとしたら、それは外交上は相当にレベルの低い考慮です。


 ところで、私はパキスタンという国を見る時に(恐らくはあまり誰も注目しない)繋がりから一旦見てみることにしています。それはサウジアラビアです。パキスタンとサウジアラビアの関係がクローズアップされることはあまりないように見えますが、非常に繋がりが強いのです。表に出てくる出来事だけを見ても分かります。ペルヴェーズ・ムシャッラフが元首になった後、最初に訪問したのはたしかサウジ・アラビアでした。日本の福田総理が就任した際、最初に行ったのはアメリカだったのを覚えておられる方もるでしょう。最初の訪問地というのは非常に意味合いが強いのです。あと、サウジはかなり廉価でパキスタンに石油を供給していると聞いたこともあります。かなり手なづけ工作が行われていたということではないかと思います。


 また、ナワズ・シャリフがクーデターで亡命した際、向かったのはサウジ・アラビアでした。まあ、彼は(どちらかと言えば)世俗主義者のブットとは違い、イスラム主義色が強く、首相在任時からサウジ・アラビアと非常に近かったというのもあるのでしょうが。


 首都イスラマバードにある巨大なモスクはサウジ・アラビアの寄附によるものだそうです(類似の建物が国内にたくさんあるはずです。)。サウジ・アラビアは厳格なワッハーブ主義をパキスタンに伝播させたいという思いが強く、これまでもずっとワッハーブ主義に基づく学校(メドレセ)をパキスタン国内に作ってきました。それがタリバーンの原型を作ったとも言われますし、今でも北西辺境州(アフガニスタンとの国境で今、ドンパチやっているところ)を始めとするパキスタン全土にはワッハーブ主義を信奉する人は多いです。


 逆にサウジは多分、パキスタンへの関係の中で核技術を入手しているような気がします。今、世界が懸念しているのが、イランが核兵器保有宣言をしたら、すぐにイスラエル、サウジが同様の呼応をして、それはエジプトにまで伝播するという核の連鎖です。つまり、そういう懸念が実しやかに語られるというのはサウジがある程度核兵器を持つだけの力を持っているということが前提です。私も「そうかもしれんな、あの国(サウジ)なら・・・。」というのが本音です。


 パキスタンには色々な国が影響力を持っていると言われます。しかし、実はその中でもかなり有力だと思うのがサウジ・アラビアであり、逆にこの繋がりに注目するマスコミはあまりありません。今の状態をサウジ・アラビアから見たらどう見えるかな、自分がサウジ・アラビアのアブダッラー国王だったらどういうアプローチをするかな、ナワズ・シャリフはサウジ・アラビア政府から支援を貰ったり、何か言い含められたりしているだろうか、そんな目でパキスタン情勢を最近見ています。