元防衛事務次官が逮捕されましたが、結構衝撃的だったのは夫人が逮捕されたことです。昔、岡光厚生次官が逮捕された際、夫人が「おねだり妻」とか呼ばれてかなり叩かれましたが、あの時ですら夫人逮捕とは行きませんでした。世論の風向きがあったせいなのか、それともおねだりが相当にひどかったのか、それとも夫人を野に放っておくと何を話すか分からないからなのか、私にはよく分かりませんが夫人にまで手が伸びたというのは驚きでした。


 報道によれば、夫人が相当に業界からの便宜供与を受けていたみたいです。まあ、人間、お金に卑しくなってはいかんという良い例でしょう。これから司法による判断に任せるということでいいと思います。


 私が注目したのは、実は防衛庁内に「美鳩会」といった課長級以上の夫人が集まる会合があって、その中で守屋夫人がかなりの権勢を振るっていたということです。最初の感想は「何処のお役所でも同じやね。なんで日本の組織ではそうやって、配偶者までが本人の階級と同じように扱われ、しかも配偶者は勘違いをして威張るのだろうか。」ということです。


 多分、こういう現象の最たるものというのは「大使館」というところです。外務官僚の上がりに当たる「大使」を長とする組織ですね。一般論として、大使夫人というのは外交の世界ではかなり高いステータスを与えられます。これは夫婦で出席する会合の数が多いということがあるのだと思います。しかし、その裏で大使館に勤める館員の夫人の間には、ダンナ間にある秩序よりも強烈な秩序が存在していることが非常に多かったように思います(注:以下、ダンナが働いて配偶者が夫人という前提で書きますが、これは如何なる意味においても例示に過ぎず、男尊女卑的な意味合いは一切ないことをご理解下さい。)。


 実際に大使館で働くダンナ達は行政の中にある職階制度で指揮命令系統がしっかりしている中で働くので、ある意味明確な上下関係を形成することができます。明確な上下関係があれば、色々な人間関係も割り切りやすくなるものです。しかし、夫人達ということになると、必ずしも行政機関の中での職階制度の関係があるわけではなく、あくまでも「ダンナの階級に応じた」非常に漠然とした事実上の上下関係が作られていきます。これは根拠が存在しない中での上下関係だけに、捉えどころがありません。表向きは上下関係がないのに、事実上存在しているという中では、色々な人間関係が表に(言葉として)出てくる時は明確な指揮・命令に拠りません。その結果、皮肉、イヤミ、陰口といったものが非常に多用される人間関係が構成されます。しかも、大使館という世界は日本国内ではなく、外国にある非常に小さな日本人コミュニティですから、人間関係がどんどん煮詰まっていきます。皮肉、イヤミ、陰口に特徴付けられた非常に狭いコミュニティ、普通ならノイローゼになりたくもなるところです。


 多分、「美鳩会」というのもそういうかたちで秩序が維持されていたのだと思います。次官夫人を頂点とする事実上のピラミッドが成立していて、その中では何ともいえない「オホホホホ」系の会話と次官夫人への阿諛が繰広げられていたはずです。課長夫人、局長夫人からすれば「うざい」と思いつつも、この裏秩序に逆らうと何をされるか分からないと思えば、お付き合いは欠かせません。もしかしたら、守屋夫人も若い頃にそういうのを経験して、「いつかは私があの座についてみせる」と思っていたのかもしれません(それはそれで寂しい動機ですけど)。そうする内に組織の内外にかかわらず、自分自身が組織の高いところに位置づけられていると感じ、増長していったのでしょう。


 まあ、こういうのは防衛省とか、外務省といった場所だけに限らず、日本人で構成するコミュニティならば多かれ少なかれあるのでしょう。ただ、中央官庁というところは古臭い感覚が残っているところで、民間企業であればとっくの昔に「アホクサ」と言って廃してしまった悪習が残っていて、この夫人間の奇妙なヒエラルキーはその最たるものだと思います。防衛省には利権があったので、夫人の増長が刑事事件になり、大した利権もない外務省だから刑事事件にはならない、ただそれだけのことなんじゃないかなと私は思っています。