ODA(政府開発援助)というと美しい世界のように思えるかもしれません。実態はそうでもありません。私自身はちょっとインサイダーだったことがあるので、あまり告発的なことを書くのは宜しくないのですが、いつも「これって、イヤだったのよね」と思っていたことを書いておきます。


 それは「JICA専門家」についてです。JICA(国際協力機構)という組織は援助を実施する機関で、技術協力とかをメインにやっていました。国際協力銀行が解体されてからは円借款などもやるようになるようです。まあ、この書き込みの文脈では「援助機関」くらいの感じでいいでしょう。


 JICAは「専門家」という名目でかなりの人を外国に出しています。農村開発、漁業振興などなど、それはそれは幅広い分野で「専門家」を出しています。高い知見を持った方がその技術を海外にお伝えするというのが主たる目的です。大体、派遣先の国の政府機関にある程度高い地位を得て活動することが多いようです。特筆されるべきは給与が高いことです。正確には記憶していませんが年収1000万円を超えていたように思います。本業を投げ打って、国際協力に専念する方にはそれくらいの報酬を約束しないといけないということなのかな、と好意的に解することも出来ます。


 専門家の中には、たしかにその名に値する知見を有し、また現場で英語等を駆使しながら活躍し、現地の方々の尊敬を勝ち得ている人がたくさんいます。私もそういう方を何人か知っています。しかしながら、残念なことにそういうレベルに至らない方もたくさんいるのです。言葉が出来ない、知見もたかが知れている、したがって現地の人から信頼も尊敬もされない、けど、現地では良い生活をしている。そういう役に立たない専門家もいます。実は専門家を1名派遣すると、その活動支援ということでJICAは機材を供与するための予算を付けてあげています。現地の人からすると「専門家は要らないんだけど、くっついてくる機材が欲しいから専門家を受け入れる」みたいな本末転倒のケースもあります。


 一番始末に終えないのが、中央官庁の固定ポスト化した専門家です。専門家ポストが既得権益化して、既に各官庁の人事異動の中に完全に組み込まれていることが多々あります。各官庁の課長補佐、係長クラスが出向というかたちでJICA専門家として2年程度海外勤務をするわけです。まあ、それでも良い人材が出てくるのならいいのですが、時折「え゙っ?」と思うような人を単なる人事異動の一環として出しています。事実上、JICAという名を借りて「骨休めポスト」を確保している感覚だろうと思います。


 はっきり言って「もう止めたら?」と思うような専門家派遣は結構あるのですが、これを止めようとするとそのお役所から激烈な反応が返ってくるのが常です。お役所はポストに生きていますから、ポストが削減されようとすると「いかにこのポストが重要で、相手国に貢献してきたか」というくだらないペーパーを山のように作って、JICAに乗り込んで抗議に来ているはずです。


 今は知りませんが、かつてインドネシアにはJICA専門家という肩書きで200名近い人が派遣されていました。本当に活躍していた人がどれくらいいたのかは私の知り得るところではありませんが、確実に言えるのは「全然、役に立たなかった人がかなりいた」ことです。多分、JICAジャカルタ事務所でも把握し切れていなかったのではないかと思います(特に各官庁から来ている専門家はあまりJICA専門家という意識はなくて、その忠誠心は常に親元の官庁に向けられるため)。


 国際協力の下、専門的知見を伝える為に派遣される人というと言葉は美しいですが、その実態たるや、一回良く見直して整理すべきでしょう。それだけで無駄な援助予算がかなり浮くと思います。