【以下はかなり前に書きだめしていたものです。現在の日朝情勢とそぐわないところがあるのは重々分かっているのですが、種々の事情から書きだめをそのまま吐き出していくことにします】


 これから書くことはあくまでも「単なる考察」であることをお断りしておきます。「是」「非」の話はできるだけ控えるつもりです。その点だけはご理解ください。


 日朝国交正常化の話が進んでいます。テーマは色々あるのですが、請求権の話の解決は非常に大きな位置を占めるでしょう。「請求権」と言っても何だか分からないでしょうから、言い直すと「国交正常化する際にどれくらいカネを渡すか」ということです。これについては昔、色々な思い を書いたことがあるのでそれを参照ください。


 今回は「仮に(どういうかたちであれ)日朝国交正常化が成立した場合を想定し、日韓国交正常化と対比してどれくらいのカネが動くだろうか」という考察です。しつこいですが、単なる考察であって価値判断はあまり入れないようにします。


 1965年(昭和40年)の日韓国交正常化では請求権の放棄と経済協力が合意されました。つまりは「過去のことは水に流す、その代わりに経済協力をする」ということです。本当に過去に流しているかどうかというと、なかなかそうは言えない事柄が起きますが、法文上はかなり厳密にやっています。どんなに韓国が頑張ってみても、法的に請求できるものはありません。そして、経済協力については無償援助3億ドル、政府借款2億ドル、民間投資1億ドルの計6億ドルです。民間の部分は数字を積み上げるための苦肉の策っぽいところがありますが、ともかく国交正常化で韓国に6億ドルの金銭が渡ったという事実だけから考えてみたいと思います。


 こういう時にどういう計算をするのがいいのか、私にはよく分からないのですが、ドルで物価上昇率等を計算するのはとても難しいのですべて円に換算して計算してみたいと思います。思い直せば当時は1ドル360円の時代でした。6億ドル×360円/ドル=2160億円になります。今の感覚でもスゴい数字ですが、当時はまだ戦後20年しか経っていません。最近、私は「ウルトラQ」のDVDを見るのを楽しみにしているのですが1965年はウルトラQの時代です。DVDを通じて世相を見るとやはり物価水準の違いを感じます。物価についてはどういう指標で判断していくのがいいのか判断が尽きかねるものの、あえて消費者物価指数などを見てみると、近年を100とすると1965年時点では10を切って7~8くらい、つまり現在の12分の1くらいの物価ということになります。


 これで計算してみると、2160億円×12=約2兆6千億円という数字になります。まあ、これは円・ドルレートが劇的に動いたことを始めとする幾つかの要素を全く考慮していない、現実味のない非常に雑な数字なので、日韓で出した6億ドルは今の日本の感覚で言うと2兆6千億円だというつもりは毛頭ありません。ただ、兆単位の数字を念頭に置いてあれこれと暗躍する人がいるというのは、こういう雑な計算で「まあ、どっちにしたって国交正常化すれば日本から北朝鮮に渡るカネは1兆は超えるだろうから唾をつけておきたい(できればおこぼれに預かりたい)」と考えるためです。


 日朝国交正常化については、拉致問題があるからその分の請求権分は差し引くべし、いや金丸訪朝時には、政権与党と第一野党が戦後についても日本は北朝鮮に申し訳ないことをしたと認めているからその分の請求権が加算される、色々な考慮があります。私はそもそも朝鮮半島統一の方が日朝国交正常化より先に来て、最後は日朝国交正常化は統一朝鮮への支援に転化すると思っているので、更に事情は複雑にはなるのですが、純粋に数字だけをこねくり回すと2兆以上の数字が出てくるということです。


 時折、メディアでは「国交正常化では100億ドルのカネが動く」みたいなことが言われます。国民感情的には「??」でしょう。私も同感です。本当に国交正常化を精力的に進めるのであれば、政治サイドからこの件について問題提起と議論喚起くらいはした方がいいはずです。政治家やお役人は国交正常化に伴いお金が出て行くことを了解しているのですが、それ以外の人で「日朝国交正常化」と聞いてそんなに巨額の金銭が絡むと思う人はあまりいないでしょう。「外交交渉だから」みたいな薄っぺらい理由でこの手の話が何の議論もないままに水面下で進み、最後に「色々ありましたけど100億ドルになりました」みたいなやり方は絶対にやるべきではないと思います(勿論、私は外交にある程度の「秘密性」が求められることを否定するものではありません)。