最近、将来の人口推移に関する話を立て続けに聞きました。細かい数字を出すことはあまりしませんが、簡単に言うと今後人口は逓減していき、その中で年少人口(~14歳)・生産年齢人口(15~64歳)は減っていき、老年人口は増えていくということです。2005年くらいを期に日本の人口は減り始めています。2005年~10年で50万人、2010年~15年で100万人、2015~20年で270万人と加速度的に減っていく感があります。その中で老年人口は増えていくので、若年層の減少は上記の総人口の減少よりも減少の度合いが早いわけです。2005年から2020年の変化で言うと、年少人口では1750万人→1300万人、生産年齢人口では8400万人→7360万人、老年人口では2570万人→3590万人、日本の高齢化は圧倒的なスピードで進んでいくんだなということが理解できました。


 単純なコメントですが、やっぱり残念だという気持ちは否めません。人口が減るということを悲観的に捉える必要はない、これからはストック経済(資産で稼ぐ)で豊かさを追求していこう、モノ作りをの根幹を握っていれば大丈夫、輸出産業を伸ばしていけば内需の減少はカバーできる、まあ色々な「悲観論打消し」があることは知っています。どれも幾ばくかの真実を突いているとは思います。しかし、やっぱり人口が減っていくことは日本全体の活力が下がる要因だという現実に目を背けてはなりません。悲観論一色にならないように色々な明るい兆しを探そうとする試みは大切ですが、希望的観測に過度に頼りすぎて危機的な現実から目を背けてはいけません。


 ちょっと指標として適当なのかどうかは分かりませんが、食料や酒類の消費量は既に1996年くらいをピークに下がり始めているそうです。食べること、呑むことが社会の活力とどれくらい直結するのかは検証できないでしょうが、やはり直感としてそれだけエネルギーの消費が下がっているわけですから、社会全体が持つ色々な意味での出力は既に下がってきているのかもしれません。


 この日本の将来をいち早く先取りしているのが我が北九州です。この市は100万都市であることをアイデンティティにしてきました。私が小さい頃も「100万人」ということに得も言われぬ誇らしい気持ちを持ったものです。この街で行う最大のお祭りは「わっしょい100万夏祭り」ですから、その拘りたるやご理解いただけると思います。しかし、実はこの市、既に人口が100万人を割っています。数年前、東京在住時に新聞で「北九州市の人口100万人を割る」という報道を見た時にはとても残念でした。今は98万5千人くらいです。あまり自虐的になるつもりはありませんが「この『わっしょい100万』もいずれは『わっしょい90万』になり、『わっしょい80万』になるのだろうか」と思うと寂しいです。


 まあ、内情を見てみると意外に複雑で、まず1980年代以降鉄冷えを契機とする転出者増による人口減が増えました。私は高校卒業まで新日本八幡製鉄所の社宅に住んでいたのですが、同級生がどんどん千葉県君津市に引っ越していったのを今でもよく覚えています(そして、子供心に「東京に近くていいよな」と思って、父に「うちは君津に行かないの?」と聞いたらこっぴどく叱られたことも)。小学校1年の時5クラスだったのが卒業時に2クラスだったことがすべてを物語っています。ただ、ここ数年はそういう社会的な事情による人口減は止まりつつあって、遂にこの街でも自然的な事情(つまりは出産減)による人口減が主たる要因になりつつあります。しかも、その結果としてこの街は高齢者率が加速度的に上がっていっています。1975年には7%程度だった高齢者の数は今や23%を越えました。いわゆる政令指定都市の中でここまで高齢者率が高い街は他にはありません。高齢者率の指標として適当かどうかは分かりませんが、たしかにこの街では高齢者の方々によるカラオケ大会が非常に盛んです。一昔前はあまり見ませんでしたが、季節がよくなると市内の至る所でやっています。私も「いずれ参戦してやろう」と思って、時折夜のカラオケスナックに行っては妙齢の御婦人と「愛が生まれた日」(但し、これは「若い人の歌」に属するらしい)などデュエットして練習しています。


 今後、北九州市では現状のまま推移すると2030年には75万人まで人口が減り、年少人口は13万→7万強、生産年齢人口は64万→44万、高齢者は22万→24万で、高齢者率は何と32%にまで上がります。2030年と言えば、私は57歳。そろそろ高齢者が視野に入ってくる年です。「そうか、自分が高齢者になる時は同年代のお友達がたくさん居ていいなあ」と思うこともできますが、さすがにそれを支えてくれる生産年齢人口がガクンと減ってしまうことには危機感を覚えます。


 まあ、今、市が一生懸命やっている企業誘致が効を奏して人口流入があると仮定すると、この度合いはグンと緩和され、2030年の人口は85万人くらいで維持できるそうです。あまり細かい数字は避けますが、上記の現状推移型よりは生産年齢人口がもう少し維持できて、それに応じて年少人口の減少も抑えられる感じです。更には出生率が上昇することを前提にしていいのならもっと人口減は抑えられて2030年は88万人くらいになるそうです。ただ、年金の議論を見ても分かるとおりですが、楽観的なプランが実現することというのは非常に稀です。まずは悲観的に予測するのが筋でしょう。私は自分が65歳になる頃は、この街の人口は70万人くらいで周りに住む人の1/3以上は自分よりも高齢だというくらいのイメージでいます(勿論、それを少しでも改善するための努力をすることは言うまでもありません。あくまでも心構えの問題として。)。


 今、この街は全力で企業誘致をしています。何処まで行ってもモノづくりの街ですから、企業誘致には頑張ってほしいと思います。他都市に比して自慢できるものは「地震がないこと」、「物価が安いこと」、「メシが美味いこと」です。私が地震を初めて経験したのは高校卒業後、東京に行ってからです。大学の寮で地震に大騒ぎしていたら、開成高校卒業の同級生から「おまえ、この程度のことで騒ぐな」と言われたのを思い出します。この街で地面が揺れるなんてことはあり得ません。うちの母は狭いアパートの中、東京ではあり得ないようなインテリアをしています(東京では地震で落ちるから危ないので絶対にやらないような不安定な置き方)。あと物価が安いのは、東京生活の長い私が保障します。モノに依りますが、全体で2~3割は安いです(ただ、東京より高いものもあります。)。メシについてはあまり有名でないのですが、特に魚介類については「そういえば東京で食べてた刺身はヘナヘナして不味かったな」と素直に思います。


 こういうところを評価してくれる企業がどれくらい居られるかは分かりませんが、ひいきの引き倒しで企業進出にはいい場所だと思います。北橋健治市長は「産業誘致のために打てるタマはすべて打つ」という悲壮な決意で頑張っています。私はこの市で産業誘致が少しでも前に進んで、上記の85万人シナリオに近付いてほしいと願っています。


 まあ、あまり結論めいたものはないのですが、人口減、これは日本全体で考えるべきものです。どうしても、人間は深刻な事態を少しでも(意識の上で)軽減したいと思うので楽観的な発想に陥りがちですが、それでは改善はありません。まずは真正面から取り組むことですね。と言っても、解決策は少子化対策に収束するのですが。


(注)なお、本書き込みに際しては日本銀行北九州支店のレポートを参考にしました。