前回に続き、テロ特措法と「新法」についてです。今のまま行くと、安倍総理の辞任もありテロ特措法の失効期限である11月1日までに新法の国会審議は完了しないでしょう。さて、その時にどうなるかを考えてみます。


 常識的に考えれば、11月1日で期限が切れればインド洋やペルシャ湾にいる海上自衛隊の艦船は帰国手続をとり帰路を辿ると思うでしょう。そして、衆議院での新法再可決が決まったら、帰路からまた戻るということをするということになります。ちょっとこれは間が抜けてますよね。11月1日が過ぎたところで帰り支度をして、インドの南とか東南アジアあたりを帰ってきていたら、やっぱり新法が国会で成立しましたから戻りますといって元々活動していた場所に戻っていくということです。補給を受けていた相手方からすると「変なことするやっちゃなー」と思うこと必定です。


 私は多分これはやらないと見ています。新法を必ず通すという決意があることが前提になりますが、その前提があるとするなら、テロ特措法が失効した後も何らかのかたちで自衛隊の艦船を現地に滞在させようとするのではないかと思っています(勿論、「新法」が成立するまでは給油活動はやれないし、やらない)。


 そんなことが可能かということですが、その前にまず防衛省という組織文化について少し説明します。非常に法律主義です。自衛隊の活動はすべからく法律にきちんと根拠があることを厳格に追及しようとします。戦後長い期間、自衛隊が色々な方面から狙い撃ちされてきたので、すべての活動に根拠法を求めます。お役所というのは防衛省に限らず、そうでなくてはならないのでしょうが、特に防衛省はそういう文化が強いです。逆に言うと、それくらいあちこち叩かれまくったということなのでしょう。


 そういう防衛省が海自の艦船を帰国の途につかせることなく、「新法」が成立するまでの間、現地に置きつづける根拠法を何処に設けるか。なかなか難しいですが、私は「調査・研究」というところに活路を見出すような気がしてなりません(防衛省設置法第四条十八で「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」という所掌事務が規定されています。)。防衛省設置法という法律では、防衛省そして自衛隊という組織がどういうことができるかということが所掌事務として規定されています。ここで決められたこと以上のことは防衛省や自衛隊はやれないのです。この防衛省設置法の中で「調査・研究」ということが所掌事務として規定されています。これを使ってくる可能性があります。


 海上自衛隊は毎年、世界各地を「遠洋航行訓練」みたいなかたちで回っています。基本的には海上自衛官の訓練が目的ですが、世界各地での防衛交流みたいなものも大切です(各地で大歓迎されます)。これの根拠法は「調査・研究」ではなかったかと思います(違っていたらスイマセン)。ちなみに過去に共産党が追求したことがあることなのですが、日本の港に米軍艦船が入ってくる際、自衛隊の艦船が護衛したことがありました。この時の根拠法は何と「調査・研究」でした。非常に批判されましたが、まあ「調査・研究」が使いでがいいことは立証済みです。


 つまり、テロ特措法が失効したら、そこで防衛大臣から現場の司令官に「では、おまえ達はこれから現地で『調査・研究』をやれ」という指示を出すわけです。まあ、給油のための自衛隊の艦船がいるところは非戦闘地域ということになっていますから、非戦闘地域でインド洋やペルシャ湾の情勢調査・研究ということになります。法律上は遠洋での航行訓練と何ら変わりない状態にあるということにするわけです。繰り返しますが、その間は勿論給油はしません。そういう意味で給油活動の中断はあります。しかしながら、現場にはいるわけですからプレゼンスは確保されます。そして、「新法」が成立したら、また防衛大臣から「新法に基づいて給油活動をやれ」という指示をその場にいる艦船の司令官に出すわけです。


 必ずしも確信はないのですが、こういうストーリーを描いているんじゃないかなと私は思います。違っているかもしれません。しかしながら、防衛省、外務省、内閣官房は、テロ特措法と「新法」の間に少し時間的なずれが出ることを想定して、その間を埋める何らかの方策を既に探っているはずです。新法ができ、国会に上程される頃にはそこまですべてセットしているはずです(というか、そこまで検討していないものは上げられないし、そもそもそんな検討をしない人はお役人とは呼べない。)。