【以下は昨年書いたもので、少し情報が古いのですがご参考まで。】


 少し古い話ですが、2014年の冬季オリンピックがロシアのソチという街に決まったことは既報のとおりです。プーチン大統領は相当に金銭を使って、韓国やドイツを押しのけました。


 まあ、私は札束で顔を叩くようなかたちでオリンピックが決まるのはあまり好きではありません。どう考えても、プーチンは石油で稼いだ金でオリンピック委員会の委員の顔を叩きまくっています。サマランチ(前委員長)とかロゲ(現委員長)といった金満人間の顔を見ると虫唾が走るのは私だけではないはずです。別に公職選挙法のような法律があるわけではなく違法でもなんでもないのでしょうが、こういう慣行が続くともう経済的に大盤振る舞いをすることができない国ではオリンピックを開催することができなくなります。


 私が「ソチ」という名前を聞いた時に思ったのは、「そんなとこでやっていいのか?」ということでした。ここはロシアの保養地だとか、黒海に面しているとか、まあそういったことが喧伝されています。しかし、マスコミが言わないことが一つあります。「(準)紛争地域に近い」ということです。


 ソチという場所はロシア領の中でも黒海に面した場所なんですが、実はグルジアという国との国境からすぐのところにあります。しかも、ソチのすぐ南にあるのは(グルジア領の)アブハジアという地域です。このアブハジアという地域、グルジア領なのですが、ロシアが分離独立させようと親ロシア派の勢力を押し込んでグルジア政府の影響力が及びにくい地域です。


 グルジアという国はもともとソ連の外相をやっていたシュヴァルナッゼという人が大統領をやっていたのですが、2002年にアメリカに近いサーカシヴィリという人が大統領になりました。それ以来、グルジアとロシアは全く上手くいっていません。これまでグルジアへのエネルギー供給を止めるとか、グルジア産ワインやミネラルウォーター禁輸とか色々な事件があったのですが、最も大きいのはグルジアをよく思わないロシアが分離独立運動を支援していることです。グルジアは小さな国ですが、その中で南オセチアとアブハジアという地域に親ロシア派の自治州大統領を据えて、事実上ロシアの傀儡政権を据えています。


(注:最近、ケフィアというヨーグルトのTVコマーシャルがありますが、あれは正にアブハジア地域を始めとするコーカサス産です。アブハジアにはスヴァネティという世界遺産に指定された美しい地域がありますが、このあたりがケフィアのおいしい地域でしょう。アブハジア分離独立運動などで治安が悪くて行きにくいのが残念です。)


 そういう中、昨年8月にはロシア軍が南オセチアのツィテルバニという街を爆撃したといったことがありました。これは欧州による独立の調査でロシアによるものであるということがかなり確度高く証明されています。更には8月下旬にはアブハジアでロシア空軍の飛行機が、グルジア軍のミサイルで打ち落とされたという事件がありました。ロシアはいずれも「ロシアを貶めんとするグルジアの自作自演である」と主張していますが、多分ロシア空軍が南オセチアやアブハジアの領空をウロウロしていることはよく知られていることですので事実でしょう。


 ロシア軍の飛行機が打ち落とされたアブハジア内の地域からソチまではそんなに遠くはありません。まあ、グルジアはロシア領に侵攻する意図は毛頭ないので、別にソチが危ないというつもりはありませんが、それにしてもそういう物騒な事件が二国間で起こるような地域の隣接地域でオリンピックが行われたことは過去にないんじゃないかなと思います。それを思うと、ロシアはかなりお金を積んでソチ冬季オリンピックを獲得したことが類推されます。


 ロシアは今、(ロシアに恭順を示さない)旧ソ連の共和国に対してあれこれと嫌がらせをしています。また、冷戦後自制していた太平洋のアメリカ領の近くへの偵察飛行も再開するとしています。ロシアはもはや一時期の弱体化したビンボー国家ではありません。今後、日本の領空や領空近くにもこういったロシアからちょっかいが出てくるかもしれません。特に北方領土がらみで歯舞諸島と根室の中間点ギリギリのところを嫌がらせのようにロシア空軍がこれみよがしに回ってくるとかいうこともあるでしょう。ロシアという国が、石油価格上昇とともに変質していることに我々はもっと目をむけなくてはならないような気がします(勿論、資源大国として上手く付き合うことも含めて)。