参議院で与野党が逆転したことで、影響の出るものの一つに国会同意人事というのがあります。日銀、人事院、公正取引委員会、会計検査院のようなものが比較的有名です。ただ、意外にあまり知られていないものもあります。大体、下記のように分けられるそうです。


・内閣から独立した機関:人事院の人事官、会計検査院の検査官など
・日本銀行等法人の最高意思決定機関:日本銀行の政策委員やNHKの経営委員など
・国家行政組織法第三条に基づく独立行政委員会:公正取引委員、国家公安委員など
・内閣府の重要政策に関する会議:総合科学技術会議
・国家行政組織法第八条等に基づく審議会等:食品安全、原子力、情報公開、証券取引等監視、地方財政など(かなり数が多い)


 これらは衆参双方の同意を得てから内閣が任命しています。参議院で過半数を確保できないと、こういった人事は成立しません。しかも、参議院で否決されたらそれで終わりで衆議院による再可決はありません。


 近々人事案件が国会に上がるもので、今は日銀総裁の話に焦点が当たっています。まあ、それは尤もだと思うのですが、私が実は注目しているものがあります。それは国家公安委員です。


 国家公安委員会というのはあまり知られていないのですが、日本の警察組織の頂点にある組織と言っていいと思います。委員長と5人の委員からなっています。警察組織に対する民主的管理と政治的中立性の担保を行うために戦後作られました。警察庁や国家公安委員会が担当するのは国が行うことが適当な、例えば警察官の教育制度、広域警察行政、国全体の安全に関わるもの等です(各都道府県には県警と公安委員会がある)。こういったことについて国家公安委員会が警察庁を管理するというのがあるべき姿です。そして、警察庁長官が国家公安委員会の管理に服しながら、警察庁として日々の警察行政を行い、都道府県警を指揮監督することになっています。


 この国家公安委員会は内閣府の外局として設けられた委員会の中で唯一、その長に国務大臣を当てているということで権威が高いです。一昔前は国家公安委員長というのは、自治大臣が兼任していましたが今は単独の国務大臣になっています。それだけ重要な委員会ということです。


 こう書くと、国家公安委員長というのは相当な権限を持っているんだろうと思うかもしれません。実は法制度上はそうはなっていないのです。法令上、例えば通常のお役所関連の意思決定や権限についてはその役所の大臣である「●●大臣は・・・」という記述になりますが、「国家公安委員『長』は・・・」というかたちで意思決定や権限を発揮することはないんですね。すべては「国家公安委員会」が主語になります。もっと言うと、「国家公安委員長」という固有名詞が法律に出てくることは1度もありません。国家公安委員会というのは合議体の組織であって、委員長以外の5人の委員の多数決で物事が決まります。そして、この国家公安委員会の決定によって、(建前上は)警察行政は日本の警察行政は管理されている(ことになっている)わけです。国家公安委員「長」というのは勿論国務大臣ですから非常に高い権威を持っているのですが、国家公安委員「会」が持つ権限への影響力たるや、国務大臣というステータスに比すると限定的と言えるかもしれません。逆に言うと国家公安委員の持つ権限というのは本来、相当なものがあります。


 それ程重要な国家公安委員、顔ぶれを見てみたいと思います。
・ 早稲田大教授(元内閣法制局長官)
・ 国際問題研究所(元国連大使)
・ 産経新聞論説委員長
・ JR東海社長
・ 総合研究大学院大学教授


 私がすぐに思ったのは「なんだ、本業でやっている人はいないのか」ということです。警察庁を「管理」する大きな権限を持つ(はずの)国家公安委員が事実上兼職でやっているのを見て、ちょっとガクンッとしました。しかも、官僚として現役を引退した人が2名入っています。本来、大きな役割を果たすべき国家公安委員というのが事実上形骸化していて、多分警察官僚からの「ご説明」を受けてその振り付けのまま動いているということでしょう。たしかに、国家公安委員が警察行政に強いイニシァティブを発揮したという話を多聞にして聞きません。警察不祥事への綱紀粛正等で国家公安委員が意見を表明したことがあるでしょうか。まあ、そもそも上記のような経歴の人がどれくらい警察庁の管理に貢献できるのかにも疑問がありますが。逆に言うと、その程度の役割だから本業じゃなくてもやれるということなのかもしれません。


 さて、年内に上記の国家公安委員のうち一名(元内閣法制局長官)の任期が切れます。次回臨時国会に同意人事案件が上がってくるでしょう。人事案件でこの国家公安委員会制度が本当に有効に機能するような方向性を、国会で提示していくことが大切だと私は思っています。5名の多数決ですから1名変わったくらいですぐに何かが変わるわけではありません。ただ、中長期的はあと5年くらいのうちにすべての委員の改選が来ます。折角、参議院で野党が多数になったのですから、そういうことも視野に入れるべきですね。本来、私は参議院が優位となるべき分野を特定したほうがいいという考えをもっていて、本来の「良識の府」(今はあまり良識ある議論がされているとは思いませんが)たるには例えば「人事」「決算」などで優位を持つような制度設計がいいと思っているので、今回の同意人事案件では参議院としての良識を示してほしいです。


 同意人事案件は現在のコンテクストでは与野党対決のタマとして焦点が当たっています。日銀総裁なんてのはそういう意味合いもあるでしょう。しかし、同意人事の対象となっている多くの組織の将来的なあるべき姿、あるべき機能をきちんと考えながら臨むことはとても大切なことです。