「今後の国会」ということで書いてみた際、意図的に少し省いたテーマがありました。


 それは「参議院先議で『年金流出禁止法』や『天下り禁止法』のような法律をどんどん出して、参議院で可決して衆議院に送ればいい。そこで衆議院が否決する時には違いを国民の目の当たりにすることができる。」ということです。正しいことだと思うのです。そうやって、政策レベルでどんどん与野党が競う姿は本来の国会の姿でしょう。しかし、私は実際にそうなるのは簡単ではないと思います。そこまで到達させるのは相当な力が要るでしょう。


 何故私が若干厳しめの見方をするかというと、議員立法の限界があるからです。仮に「天下り禁止法」を策定しようとします。そうすると党の政調と衆議院・参議院法制局をベースに作らなくてはなりません。全体としてはかなり良いものができるでしょう。しかし、細かい詰めの部分でどうしても荒いところが出てくることは避けられないでしょう。一般的に政府が法律を作る際は、既に存在するあらゆる法律や政令との関係を霞ヶ関全体できちんと精査してから、しかも内閣法制局でガッチリと審査してから国会に出てきます。延べ時間で数千時間の時間を投入していると思います。そこまでの詰めを党の政調や衆議院・参議院法制局でやっていくことは恐らく時間的に無理でしょう。「天下り禁止法」を作ろうとすると、それはそれは多くの法律を同時に改正する必要があるはずです(通常、法律を作る時は後半部分は関連法令の改正に宛てられていることが多いです。普通の人はそれを見ても絶対に理解できませんし、理解できなくても太宗においてあまり影響はありません。)。


 私が自民党の議員なら、「天下り禁止法」が国会に出てきたらまず最初に各省の官房長を呼んで、「ちょっと精査してくれる?論点を纏めて持ってきて。」と頼みます。特に「天下り禁止法」であれば、霞ヶ関は頑張ってくれるでしょう。そして、1週間後には十分に詰めきれていない点をきちんと纏めて持ってきてくれます。その中には「ほほぉー」と思えるようなものもあれば、「ええっ、そんなことまで?」と思うような通な論点も含まれるでしょう。それを持って、国会論争に挑むことにするでしょう。


 これまでの議員立法というのは大まかに分けて2種類です。まず、与党主導のものであって、色々な事情から内閣提出にすることが難しい内容のものです。これは大体、お役所との調整を厳格にやっているので上記のような詰めはきちんとやっています。そして、国会で通っていきます。もう一つは野党主導の議員立法で、衆議院・参議院法制局と相談しただけで国会に出てきます。これまでは「いずれにしても委員会採決で否決されるから」ということで、与党から真剣な審議を挑むことはしていませんでした。しかし、今後参議院で野党が法案を出してくる場合、与党は本気でやってきます。役所が総力を尽くして作った論点ペーパーを手にして、他の法律との関係などを追及しながら「野党が作った法案は如何にこなれていないか」ということを暴いてこようするでしょう。「『天下り禁止法』を実施すると、この法律の第何条と食い違いが生じるのですがどうやって解消するのですか?」と言いつつ、想像もしていなかったようなマイナー法律との抵触関係を突くような質問をぶつけられてはたまりません。しかも、ここで答弁に立つのは提案者たる議員のみです。政府参考人の助けも得られません。これは永田町や霞ヶ関という閉ざされた業界と縁のない方には理解しにくいですが、とてもとても辛いことなのです。


 まあ、こういう感じで法律を作るためのすべての知見が霞ヶ関+内閣法制局に集中していて、そこに依拠しない法律を作るのは困難だという状況は常識的には異常だと思います。議員立法をする際に「本法律改正に伴い必要となる残余の法令整備は本法律成立後に行う」くらいの規定を入れて、後は法律が出来た後に役所側を使って残余の法整備をやらせるような慣行ができるといいんでしょうが(ちょっといい加減ですけどね)。


 ということで、参議院でどんどん法律を出して可決し、それを衆議院に送って世界観の違いを迫るという戦略ですが、原則はいいのですが「そんなに簡単じゃないし、下手を打つと反撃材料を提供してしまう」ということには留意したほうがいいと思うわけです。