台湾が国連加盟申請を出して、国連事務局にあっさりと撥ね付けられていました。正確にどういう理由だったのかは判然としないのですが、報道によると「国連総会決議に規定された『一つの中国』の原則に反するため、国連加盟国に相談することなく事務局判断でお断りした。」と言うことだそうです。


 これは台湾の国家承認獲得戦略と一致します。以前、このテーマについては書いたのですが、その直後にコスタリカのアリアス大統領から「昔、台湾にハイチ援助をしてほしいと言ったのに、台湾はたったの年2000万ドルしか出さなかった。台湾はカネの出し方が足らん。そもそも台湾はGDPの0.0001%も対外援助に出していない。」とまで言われて、バッサリと切り捨てられていました。たかりにたかった挙句、こういうことを言うコスタリカという国に対して、私は軽蔑の心を持つようになりました。アリアスという人間は昔、ノーベル平和賞を取った人ですが私の中では最低のレーティングにまで下がりました。次はパナマかニカラグアかのどちらかでしょう。特にパナマは中国の戦略上、非常に重要なパナマ運河を持っていますからここをひっくり返すことに全力を注ぐでしょう。一昔前なら台湾の方がお金持ちでしたから札束合戦で勝っていましたが、もう中国は札束合戦では負けません。


 まあ、それはともかくとして、この台湾による国連加盟申請について少し思ったことを書いておきます。基礎となるのは、1971年10月25日の国連総会決議2758号 です。それにしても今読んでみると、今の北京政府に押しこまれたのでしょう、かなり強い表現が使ってあります。「中華人民共和国の『合法的な』権利回復は国連憲章を守っていくために不可欠」とか、「中華人民共和国の代表者が中国の国連における唯一の合法的な代表者」という言い方で、中華人民共和国が合法的(lawful)であることを前文で強調しています。そして、本文でも「中華人民共和国の代表者が中国の国連における唯一の正当な(legitimate)代表者」と言った上で、当時の中華民国政府は中華民国とすら呼んでもらえずに「蒋介石の代表者」としか呼んでもらえません。終いには「国連で蒋介石の代表者が(1971年まで)占めていた席は、非合法(unlawful)なものだ」とまで断じられています。そこまで言うかと思うくらい、台湾(中華民国)はボコボコに言われています。いかなる法に基づいて「非合法(unlawful)」なのかという疑問が沸き起こりますが、そんなことを今更追求しても仕方ありません。


 この決議を読んでみると、一つの前提から成り立っているように思います。それは「中華人民共和国(北京政府)」も「中華民国(台湾)」も中国であるという大前提です。その前提に立って、その中国の代表者は中華人民共和国の代表者だということになっているわけです。この決議から読み取れるのは「一つの中国政策(one china policy)」であり、国連はこの政策をこれまで貫いてきました。しかし、それ以上の政策は実は読み取れないのです。例えば「一つの中国、一つの台湾(one china one taiwan policy)は採らない」とまでは読み取れないでしょう。


 今回の台湾の加盟申請はここを突いてきました。これまでは「中華民国」として加盟申請していたのです。それは「一つの中国政策」に反するので決議2758号との関係でも不可です。しかし、今回は違います。「台湾」として加盟申請してきたのです。中国的アイデンティティは脇において、台湾という中国とは一線を隠した存在として加盟申請してきたわけです。これは(現実問題としてはあまり意味がないのですが)論理的にはとても賢いやり方なのです。仮に台湾という組織体が中国とは関係のない単体として存在するという前提からスタートし、それを国連憲章との関係で見ていってみましょう。


 台湾が中国でなく、台湾という独立した単体なら、「中華人民共和国の『合法的な』権利回復は国連憲章を守っていくために不可欠」、「中華人民共和国の代表者が中国の国連における唯一の合法的な代表者」「中華人民共和国の代表者が中国の国連における唯一の正当な(legitimate)代表者」、「国連で中華民国政府が1971年まで占めていた席は、非合法(unlawful)なものだ」といったことは全く無関係になります。別に台湾が中国でないのなら、中華人民共和国が中国の正当かつ合法的な代表であろうがなかろうがどうでもいいことなのですね。しかも、台湾に住む人民の自決権といった点から積極的に決議と合致する方向性すら見出せます。したがって、台湾(という中国とは全く無関係の組織)が国連加盟申請することは、総会決議第2758号との関係では全く問題を生じないのです。


 ただ、国連事務局はこれを撥ね付けました。上記で言ったとおり、「一つの中国政策」だけで台湾の申請を撥ね付けることは出来ないのですね。国連事務局は総会決議第2758号で規定されたことに、何処にも規定されていないことを付け加えているのです。それは「台湾は何処までいっても中国の一部である」という認識を勝手に付け加えているのですね。その付け加えられた認識があれば、「一つの中国政策」を貫徹することができます。何処でそういう(規定されていない)認識が付け加わったのかな、と思います。まあ、領土的一体性(territorial integrity)は大切ですけど、それを重視しすぎるとすべての独立運動は違法なものとなります。これまで国連が、特定の地域が特定の国に属することを決めつけたケースは他にはないと思います。そんなことをすれば、人民の自決権を大きく阻害するからです。


 つまり、「台湾(共和国?)」という存在が国連加盟申請する時、それを国連総会決議第2758号だけに依拠して撥ね付けていくのは無理だということですね。ただ、本当に台湾がこれからも「中国ではない台湾」としての自己主張をしていくのであれば、真の意味で中国とは違う台湾としてのアイデンティティ確立が必要になっていくような気がします。今の台湾にはそこまでの意思決定はないように見えますね。そういう間は台湾の主張はリアリティがないでしょう。文言上のレトリックだけで克服できることには限界があります。やはり現実のレベルでの後支えのないレトリックは弱いですから。


 ・・・と、殆ど意味のない考察を長々とやりました。中華人民共和国が安保理の常任理事国である限りは上記のようなレトリックのレベルでの動きは意味がないでしょう。ただ、台湾なりに「中国ではない台湾」という方向性を志向し始めていることにはもっと注目が集まってもいいような気がします。