イスラエルとアラブ諸国(というかイスラム諸国)、犬猿の仲だということは知られていることです。しかし、そんなイスラエルと国交を持っているアラブ諸国が3つあります。よく知られているのはエジプトとヨルダンです。イスラエルと仲良くしているわけではなく、非常に緊張感のある関係ですが、とにもかくにもイスラエル(1979年)、ヨルダン(1994年)は国交を有しています。イスラエルと国交を持つと、アメリカからご褒美がもらえます。エジプトはアメリカの最大の援助相手国です。最近の数字は知りませんが、数年前の数字で言うと年間軍事援助が13億ドル、経済援助が7億ドルで〆て20億ドルが1年間に投じられていました。ヨルダンはアメリカから援助を貰っているだけでなく、ご褒美にFTAを締結してもらっています。ヨルダンという国に行くと、アメリカだけでなく色々な国から援助を貰っているため、どうも周囲と不釣合いなインフラが突然現われてきます。国王アブダッラー2世は数年に1回日本に来ます。それ自体はあまりニュースにはならず、美人のラーニア王妃と皇族のスナップショットがテレビに出るくらいですが、来る度に援助が出て行きます(しかも、借款を踏み倒す)。


 しかし、3つ目の国については全然知られていません。実は西アフリカのモーリタニア・イスラム共和国という国がイスラエルと国交を結んでいます。1999年にオルブライト国務長官の仲介で、レヴィー・イスラエル外相とウルド・シダフメド・モーリタニア外相がワシントンで国境樹立の協定にサインし、握手していたのを思い出します。私はモーリタニアという国に1997年一度行ったことがありますが、当時はアメリカの存在感は全くありませんでした。しかし、モーリタニアがイスラエルと国交を樹立した後はアメリカの援助が増えたと聞いています。今、欧米の援助額を見てみたら、アメリカが突出している感じはありませんが、欧米全体での援助は増えているようです。分かりやすい構図です。勿論、その後にモーリタニアはアラブ諸国(除エジプト、ジョルダン)から批判されていました。多分、モーリタニア首都のヌアクショットには厳重に警備されたイスラエル大使館があるはずです。イスラエルからも、純粋なODAとは言えないものの色々なかたちで金銭がモーリタニア指導者層に流れている可能性大です。


 モーリタニアという国は人種的にはベルベル系のモール人で純粋な意味ではアラブ系ではなく、かといってサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカというわけでもありません。一時期アフリカの連帯に傾いた時期がありましたが、「アフリカと連帯してもカネにならない」ということで、ある時から「誰でもいいからカネになる人と仲良くしたい」という非常に分かりやすい政策に変わったような気がします。お金持ちのアラブ系とも仲良くしますし、その延長上でイスラエル(とその先にいるアメリカ)との関係改善を図ったのではないかと思います。


 ・・・とここまでですと、あまり面白くもおかしくもないイスラエルをめぐるアラブ諸国内のゴタゴタの紹介ですが、この件については、私はとある推理をしています。これは外務省に勤務していた時に得た内部情報ではなく、数年前に幾つかの公開情報を読んだ後に直感的にピンと来ただけです。間違っていたらすいません。


 この国交樹立の裏には、イスラエルの核のゴミ処理の話があるように思いました。イスラエルは核不拡散防止条約に加盟していませんし、核兵器保有については持っているとも持っていないとも言わない戦略を貫いていますが、まあ「持っている」と言われています。核兵器の開発を行っていくとどうしても強い放射能を持つゴミが出ます。あの国は面積が狭いので、そういうゴミを処理する場所がないでしょう。私は、イスラエルはモーリタニアの砂漠に核のゴミを捨てているんじゃないかなと見ています。ゴミを積み入れているのは、恐らく北部にある漁港のヌアディブ。首都ヌアクショットと違って、人口はあまり多くありません。ヌアディブは砂漠の鉄鉱石採鉱場からの積み出し港にもなっていて、サハラ砂漠の中にある採鉱場まで鉄道が繋がっています。このルートを使って、核のゴミをモーリタニアの砂漠の奥地まで持ち込んで捨てているんじゃないかと見ています。イスラエルの地中海側から積み出してジブラルタルを抜ければ、ヌアディブまではすぐです。沿岸はモロッコや西サハラの人の住んでいない地域ですから目立ちません。しかも、最終目的地は地震はないし、普通は人もやってこない、こんなに便利な地域はありません。


 こういう繋がりから関係が作られ、その見返りとして金銭を約束することで国交樹立に漕ぎ着けたというのが私の見立てです。ただ、イスラエルとすれば(広義の)アラブ諸国のうちで一つでも承認国が増えることはありがたいことですから、私の推理のような背景がなくても国交樹立をしようとしたでしょう。そうやって考えると、核のゴミ受入れ+国家承認がセットですから、イスラエルは当時のモーリタニア指導層に相当程度金銭を渡したと推理するのが普通です。その後、モーリタニアはクーデターがあって、今は軍政ですがこの関係は継続されていると見ていいはずです。

 どういう公開情報を読んだら、そういう推理になるのかと聞かれるともうよく覚えていないのですが、数年前にフランス語で新聞と雑誌を複数読んでいたらスコンッと頭の中に沸き起こってきた推理です。今、ネットで調べてみたら、そういう噂は昔からあるみたいです。かつて、反政府勢力がウルド・タヤ大統領(その後、クーデターで放逐)を非難する際にそういう話をしていたようです。まあ、世界で私だけが疑っている話ではないようです。


 繰り返しになりますが、間違っていたらスイマセン(真否の検証もしようがないでしょうけど)。