物騒な題だなと思う方もいるかもしれませんが、あまり過激なことを書くつもりはありません。


 北朝鮮、ロシア、モンゴル、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、ラオス、ベトナム・・・、これが中国と陸で国境を接している国です。これらの国の大半は中国の進出に対して、表向き歓迎しつつも心底中国に飲み込まれるのではないかと恐れているのが実状です。中国とある程度対等に対峙できると言えばロシアとインドくらいです。それにパキスタンが続く感じですかね。それ以外の国は中国と国境を接していることにかなりの警戒感を持っています(ちょっと北朝鮮は特殊ですが)。まあ、あのロシアですらダマンスキー島の国境画定ではかなり中国に押し込まれているくらいですから(中国は係争地域にどんどん人を送り込んで中国領であることを既成事実化しようとした節がある)、他の国は推して知るべしです。タジキスタンという国は、中国との国境付近に金を始めとする地下資源が出ることが判明するや否や、中国に国境画定交渉で相当に押し込まれました(日本との関係でも尖閣諸島で似たような話がありますよね。)。


 私はODAというツールを色々な意味で政治的に使っていいという発想の人間です。中国と国境を接していて、中国による経済的、政治的な進出に恐怖感を持っている国に対して、そういう恐怖感に応え得るような支援ををしてあげるというのは面白いと思っています。つまり、中国との国境の近くに日本のNGOに入っていただいたりして、ODAを通じた日本のプレゼンスを確保してみるということです。中国からすると、手を変え品を変え隣国に影響力を拡大しようと思っていたら、国境から入ったすぐのところに日本のプレゼンスがあるというのは不気味な感じを受けるでしょう。そうやって日本政府がバックアップして、中国と陸路を接している国に「中国が進出してくることはある程度怖いでしょ。自分達が国境付近に援助して、現地に人も出しますよ。」というオファーをするのは、比較的少ないODA予算でやれる話です。


 こういうことを言うと、外務省チャイナスクールと言われる怖いおじさん達は「そういう中国を刺激するようなことをして何の意味があるのだ。」と言うはずです。しかし、それは「陸路国境」の重要性がよく分かってないのですね。陸路国境というと日本にはないので実感が湧きにくいですが、陸路国境の周辺というのは色々な意味で情報の集まるところです。二国間関係が一番反映されるのもその地域です。世界で色々と陸路国境を越えましたが、興味深くない国境など1つもありませんでした。そこに日本としてプレゼンスを確保して、その国にある程度恩を売り、かつ中国の拡大戦略への監視まで行える、こんなに良い話はないでしょう。そういう足腰になる情報を入手することが日本はとても弱いです。


 フランスという国はこういうのが上手いです。私がタジキスタンの奥地で中国との国境近くにあるムルガブという街に行った時に泊まった宿は、フランスのNGOである「ACTED」という団体のゲストハウスでした。何でも中国との国境に一番近い地域で学校建設の活動をやっているようでした。どう考えても不自然な選択です。人口も多くないそんな地域で活動する必然性はないのです。本当にタジキスタンのためを考えるならドゥシャンベ、クリャブ、ホジェントなど対象となる都市はいくらでもあるのです。それをあえて中国国境付近にある名もない村で援助しているわけです。彼らは「普通の平凡なNGO」を装っていましたが、どう考えても政治的な意図があります。多分、そこで仕入れた情報をフランス政府に入れているはずです。現地にいたフランス人スタッフに「政府が一枚噛んでるんでしょ?」と聞いたら、かなり激しく否定されましたけどね。


 別ネタとしては、アフガニスタンにあるアイ・ハヌム遺跡発掘の件もあります。これはクシャーナ朝とかの歴史的に非常に価値のある遺跡ではありますが、アフガニスタンとソ連(今のタジキスタン)の国境からちょっとアフガニスタンに入ったところにある遺跡です。1980年代にアフガン戦争をやっていた際には非常に機微な地域でした。フランスは1960年代からアフガン戦争直前の1978年までここで遺跡発掘をやっていたのです。ソ連・アフガン国境という地域(1960年代からソ連はかなりアフガンに介入していた)を発掘を通じて熟知しておくという発想は着眼点がいいと思いますね。


 内モンゴルからモンゴルに、新疆ウィグル自治区からカザフスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン(タジキスタンやアフガニスタンとの国境は険しい山ばかりですが一応陸路もあります)、チベットからパキスタン、インド、ネパール、ブータンに、雲南省からミャンマー、ラオス、ベトナムに入るあらゆる幹線道路沿いで日本が小規模ながら援助をやっていく。そこに日本人に入っていただく。これを実施することによって得られる情報はかなりのものがあるでしょう。中国は陸で外に出て行こうと思ったら、何処に行っても日本の旗が立っている。この「得体の知れない不気味感」というのはボディーブローのように効きます。しかも、援助1件の金額はそんなに大きくやらずに住む地域です。費用対効果も良いし、対中戦略の一環としてやってみればいいのにとずっと昔から思っていました。


 ちなみに、このアイデアは我が盟友のカリホと新橋で泥酔している時に生まれてきたものです。私だけの創作アイデアではありません。外務省の方でこのブログを見た方がいたら、是非採用してみてください。