G8サミットでは環境問題、特に地球温暖化について議論されました。まあ、地球温暖化で一番汗をかかなくてはならないのは一人あたりの温室ガスの排出量が多く、人口も多いアメリカなのですから、アメリカを巻き込もうとする取組は如何なるものであっても評価されるべきものです。


 私はあまりツバルやモルジブといった島嶼国にはあまり縁がなかったので、これまで海面上昇などを実感することはありませんでした。逆にアフリカや中東、中央アジアのステップ地域に非常に縁が深かったので砂漠化に非常に敏感です。やはり砂漠は拡大しているんですね。村の長老に聞いてみると「昔はここにも森だった」という場所が完全に砂漠になってるのを経験しました。全く知られていない国でしょうが、アフリカにモーリタニアという国があります。首都はヌアクショットと言います。ここはサハラ砂漠の最西端に当たりますが、サハラからどんどん砂が降ってきます。街には「除砂車」が循環しています。除雪車と同じ原理で、どんどん砂を履いていかないとアスファルトの道路は2週間もすれば砂で埋まってしまいます。国が、街が砂漠になっていくその恐怖、これも地球温暖化と無縁ではないはずです。


 「温室ガスを2050年までに半減する」と日本とEUが提案して、これをG8全体として「真剣に検討する」ということになりました。こういうイニシァティブはお役所からは絶対に出てこないので、安倍総理が政治的なメッセージを出したということです。大きな物事を実現していくためには、実現可能性が多少辛くても押し切るくらいの政治的イニシァティブが必要です。日本の現状は「乾いた雑巾を絞るよう」と言われていますが、これを実現していくために頑張ってほしいと思っています。そのためには原子力への転換は不可欠だと思います。


 ところで、いつも私がこの件で「けしからんなぁ」と思っているのがEUです。京都議定書でEUは温室ガスの削減率は8%でした。日本が6%ですから「おー、EUは日本よりも頑張っとるのー」と思うかもしれません。これには注意が必要なのです。EUには「EUバブル」と言われる制度があります。これは何かというと「EU15カ国(当時)全体で8%削減します。ただ、15カ国の内訳についてはEU内の仕切でやらせてもらう。」ということなんですね。つまり、EUの中には「温室ガス削減に頑張る国」と「温室ガス削減に頑張らない国」がいるということなのです。京都議定書では例えばドイツは25%減、フランスは現状維持、ポルトガルに至っては40%増を上限としています。EUで8%減というと皆、8%に見合う努力をすると思うのは間違いです。


 しかも、京都議定書では基準年が1990年でした。これは重要な意味を持っています。日本にとっては「省エネの策をすべて打ち終わった後」になります(それでも1人当たりの温室ガス消費量は相対的には多いですが)。逆にEU的な視点で見れば「共産主義の崩壊」の時期に当たります。これは何を意味するかと言うと、旧共産諸国の非効率な熱効率の施設を抱えた状態からスタートできるわけです。例えば、ドイツは東独の非効率な施設を抱え込んだところがスタート地点です。だから、あれ程の経済大国が25%減なんていう大きな負担をする約束ができたのですね。


 旧共産圏に行ったことがある方なら分かると思いますが、郊外に行くと大体沈滞したダメダメな雰囲気の中に効率性を無視した工場群と思われるものを見ることが多いです。コメコン時代は「友情パイプライン」なんていう代物でソ連から廉価で石油を輸入していたので、あまり採算や効率を考慮することなくやっていたんでしょう。ああいう工場施設は効率化していくことにより、温室ガスを抑制していくことができます。この存在がEUにとっての「(削減のための)貯め」になっているということです。


 こういう旧共産圏の熱効率が極めて非効率な国をEUはどんどん取り込んでいっています。京都議定書の後、EUは15カ国から25カ国に増えましたが、その大半は旧共産圏です。総じて経済規模は大きくない国が多いですが、大口の消費国ポーランドなども入ってきています。それらの国は効率化による温室ガス削減の余地が大きいです。これらの国が更にEUに「貯め」を作っているのではないかと私はかなり懐疑的です。したがって、この「2050年までに半減」のポイントの一つは「いつと比較して半減か?」ということです。日本の安倍総理は「現状から」という野心的な提案でしたが、EUがそこに乗っているのかどうかはよく分かりません。共産主義時代の貯めを使いたいなら、少しでも前の時点を基点にする方が有利ですから。


 フランスという国は元々原子力への転換が非常に進んでいるので一人あたりの温室ガス排出が少なく、しかも原子力発電の電力を隣国に売っているという実績をEU内で喧伝したのでしょう。京都議定書では現状維持(削減0%)ということになりました。勿論、フランスの8%削減分はドイツなどが負担しているわけです。一度、フランス環境省の担当者に「Vive le communisme(共産主義、万歳!)だな。」とイヤミをかましたところ、「Non, c'est la solidarite europeenne.(いいや、これが欧州の連帯というものさ。)」と木で鼻を括った返事でした。不愉快ですよね。


 EUが環境でエラそうなことをいう時はよく見る必要があります。彼らは既得権を害してまで、環境(とか人権)といった「普遍的価値」を打ち出すことはありませんので。