教育行政に関するちょっとしたトリビアなのですが、今、日本には学習塾の業界団体として社団法人全国学習塾協会 というのがあります。


 この協会、公益法人として設立の許可を受けているのですが、何処の省庁が許可しているかというのが非常に興味深いのです。多くの方は「学習塾だろ、文部科学省じゃないの?」と思うことでしょう。違うのです。実はこの全国学習塾協会、経済産業省によって設立を許可された社団法人なのです。1988年に通商産業省によって許可されたそうです。


 なんでも聞いてみると、この業界団体も最初は文部省に赴いて「これこれこういう団体を設立したいので、文部省で許可してくれないか?」と持ちかけたらしいんですね。しかし、当時の文部科学省は「文部省がやる教育といえば学校教育なんだから、塾みたいな学校教育の枠外にいるような存在を公に許可できるか!」と撥ねつけたらしいのです。行き先に困った学習塾経営者の方々が向かったのが通商産業省。このお役所は権限拡大に繋がることなら何でもやりますので、「どうぞどうぞ、うちで面倒見ますよ。」と言って、晴れて全国学習塾協会は通商産業省所管の公益法人になったわけです。


 そうすることによって、通商産業省は学習塾というルートを通じて、教育行政に大っぴらに口を出すことができるようになっています。ちょっと法令を見てみました。全国学習塾協会を所管する部局は「商務情報政策局サービス産業課」というところのようです。ということで、経済産業省組織令の該当部分を読んでみました。


【該当部分】
第八十六条  サービス産業課は、次に掲げる事務をつかさどる。
一  経済産業省の所掌に係るサービス業の発達、改善及び調整に関すること(資源エネルギー庁及び製造産業局並びに他課の所掌に属するものを除く。)。
二  第九条第一項第三号及び第十二号に掲げる事務であって、次に掲げる物資に関するものに関すること。
  医療用機械器具
  福祉用具
三  生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律の施行に関すること。
四  ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律 (平成四年法律第五十三号)の施行に関すること。
五  地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律 の施行に関すること。


 学習塾が何処に該当するのかもよく分かりません。さすがに学習塾は「生涯学習」ではないでしょうから、やっぱり第一項の「経済産業省の所掌に係るサービス業の発達、改善及び調整に関すること」なんでしょう。つまり、お役所の論理の中では学習塾というのは、「教育」という視点よりも「サービス業」という位置付けになっているということですね。


 京都市宇治市で塾講師が生徒を殺した事件がありましたが、あれとて所掌は経済産業省になります。ちょっと普通の感覚とはずれがありますが、お役所の仁義は厳格です。「学習塾に通う子どもの安全確保ガイドライン」なんてのも経済産業省から出されています。


 勿論、文部省はそんなことは想定していなかったでしょうが、今では教育の中で一定の地位と役割を占める学習塾は文部科学省の力が及ばない世界に行ってしまいました。今となっては地団太を踏んでいることがないわけではないのですが、もうどうしようもありませんね。学習塾という世界を通じて経済産業省が教育行政に口出ししようとすると、文部科学省は激烈に反応するのを見たことが何度かあります。


 お役所の権限争いの一端を見ていただけたでしょうか。怖いんですよ、これ。全く別の案件ではありますが、私もある役所の課長補佐から恫喝まがいの発言をされたことがあります(反撃しましたけど)。