白鵬が二場所連続優勝して横綱への道を確実にしました。先場所の優勝決定戦が残念な立合いの変化で決まったこと、今場所朝青龍が本調子でなかったことなど、若干不満な材料はありますが「二場所連続優勝か、それに準ずる成績」という横審の基準はクリアーしたことは素直に評価すべきです。


 これでモンゴル人横綱が二名ということになります。次の横綱候補も見当たらず、当面はこの流れが続くでしょう。15年前にはハワイなど南国出身の小錦、曙、武蔵丸あたりが席巻していたことを思うと隔世の感があります。何が変わったのかは私には分かりません。相撲界が南国出身に特徴的な巨漢力士を好まなくなったのか、ハワイ等で相撲が魅力的でなくなったのか、よく分かりません。ただ、小錦の全盛期を知る者としては「ああいうパワー爆発の相撲があってもいい」と思ったりもします。小錦が横綱北勝海を電車道で吹っ飛ばしたこと、北尾が小錦をさば折りでぶっ潰したこと(これは取直しの一番だったが、同体と見なされた本来の取組はどう見ても疑惑の判定だった)、舞ノ海が三所攻めで曙を引っくり返したこと、どう見ても武蔵丸の土俵入りは超下手だったことなどなど、「巨漢力士」というと良い響きを持って受け止められませんが色々と味のあった時代でした。


 ところで、実は私のいたセネガルにも相撲というかレスリングみたいなものがありました。一応「横綱」に相当する肩書きもあり、当時は「タイソン」と名乗るアメリカかぶれの変な男が横綱相当でした。異常なまでの盛り上がりを見せる競技で、最後の取組が終わった後の試合場付近は興奮で訳が分からない状態になります。私の先輩で運悪くその場に出くわして、新車をボコボコに蹴飛ばされ壊された方もいました。そんなセネガルに日本相撲協会も目をつけたことがあります。スカウトに来て良い逸材を見つけたらしいのですが、とある理由で諦めてしまいました。それは「髷が結えない」ということでした。髪がかなりきつくカールしているのでどんなに鬢付け油でやっても無理らしいのです。今のKONISHIKIを見るとどれくらい南国出身者の髪がカールしているか分かると思いますが、多分あれくらいの髪質が限界なのでしょう。


 今はモンゴル出身者だけでなく、ブルガリアの「琴欧州」、エストニアの「把瑠都(ばると)」、グルジア出身の「黒海」あたりが有名ですね。中央アジアにも目をつけていて、今、幕下に「風斧山(かざふざん)」がいます。一昔前はアルゼンチン出身の「星誕期(ほしたんご)」、「星安出寿(ほしあんです)」なんていうロマンチックな名前をした十両力士もいました(星誕期はその後帰化して、「星 誕期」さんになりました。時折テレビでも見ます。)。私はこうやって外国の方が相撲の世界に入ってくることは良いことだと思います。偏見の「へ」の字もありません。どんどん活躍してほしいと願っています。


 かくいう私もかつて相撲にちょっとだけチャレンジしてみたことがあります。母校東筑高校には相撲部があったのですが、やはり部員が確保できないので柔道部主将だった私にお鉢が回ってきたのです。当時の東筑高校相撲部の練習場というのは、日の当たらない場所でジメジメしていて、しかもあまり使っていないので雑菌が多いと言われていました。怪我をしたら破傷風になるとまで言われた魔の練習場でした。正直なところ、私はあまり強くありませんでした。そもそもああやってガツンッと頭でぶつかれないですし、体重があるわけでもなく、足腰は弱い上に固い、全く向いてないのです。ただ、そんな私が相撲で快進撃を繰り広げたことが一度ありました。近くの市で行われた大会の個人選に出た際のことでした。試合は8人か9人の総当たり戦で、周囲は100キロ以上の猛者ばかり。2位に入れば九州大会に行けるということでした。その時の私は正直なところムチャクチャでした。決まり手が物語っていました。記憶にあるだけで「上手投げ(だったがその実は柔道の内股)」、「上手投げ(千代の富士が「ウルフスペシャル」と呼んでいた頭を押さえつけて強引にやる投げ)」、「内掛け(だったがその実は柔道の大内刈り)」、「うっちゃり(140キロくらいある相手を土俵際でセコくうっちゃった)」・・・、つまりはまともに押して勝ったものは1つもないのです。結果は5勝3敗で3位、実力以上の結果でした。


 大体、柔道をやっている人間は相撲には向かないのです。柔道の投げというのは腰がグッと入ります。相撲の投げで腰を入れているとすぐに負けますし、腰を悪くします。相撲の投げというのは踏み込んで投げます。ああいう投げは柔道では相当に稀です。かつて貴闘力という力士がいました。平幕優勝の経験があるなかなか強い力士でしたが、何処か投げが柔道っぽかったですね。琴錦もそんな印象がありました。柔道が身に付いてしまうと相撲の世界は止めたほうがいいんじゃないかと思います。


 勢いに任せて相撲に対する思いを書きました。ところで白鵬を見ていると、往年の旭富士を思い出します。体の柔らかい器用な横綱でした。白鵬は旭富士にもう少しパワーを付けた感じです。地力ではまだ朝青龍の方が上だろうと思いますが、東西横綱が切磋琢磨して相撲を面白くしていってほしいと切に願うばかりです。