G8サミットで「アフリカ支援」というテーマが上がっていました。U2のボノが「今回のG8ではアフリカ問題の扱いが低かった。来年の洞爺湖サミットに期待する」みたいな感想を漏らしていました。これは昔からずっとテーマになり続けています。勿論、アフリカの貧困はすぐに解決する話ではありませんから、国際社会の問題意識を維持していくことは重要です。


 ただ、幾つかの点に留意することが必要です。まず、欧米諸国がよく主張する「貧困がテロの根元」という世界観です。これについては「ちょっと違うんじゃないか」ということを以前書きました(過去の書き込みはココ )。支援の理念たる世界観が誤っていると、処方箋も誤ってしまいます。あまり深くは書きませんが、テロは経済の問題ではなく感情の問題であって、経済的な支援で対応できることには限界があるということです。


 あと、アフリカの現状に対する認識が時折「?」と思うことがあります。対アフリカ援助にはある程度の変遷があります。最初が「援助を投じる(お金やモノを上げる)」というところからスタートしました。しかし、お金を上げるだけでは物事が改善しないし、先進国側の援助疲れもあって、「アフリカ側の自助努力を促しましょう」ということで貿易面で優遇してあげるような発想(途上国からの輸入には関税を取らないとか)が有力になってきました。基本的には今でもこういう感じで「支援もしてあげるけど、自分たちで稼げるような方策を講じて自立を促す」ということだと思います。東南アジアはこれで成功してきました。


 私はもう少し視点を進めたほうがいいと思っています。何故、アフリカは貧しいのか、という根本的なところを考えてみます。アフリカでは人口の60%から80%の人が農業に従事しています。先進国では10%以下のところが大半です。しかも、アフリカの人はよく働きます。日本ではともすればアフリカの人は「怠けている」と思っていることが多いですが、私の知る限りよく働きます。特に女性は頭が下がるくらいよく働いています。朝から水汲み、畑作業等一生懸命に頑張っています。しかも、私の経験では内陸に行けば行くほど(つまり水が少なく耕作条件が悪いところほど)人々はお喋りが減り、黙々と働きます。しかし、アフリカの国の大半では自給が実現していません。輸入のかなりの部分を食料が占めています。


 これらのことをよく考えるとアフリカという場所(あまり一つに纏めてはいけないのですが)の問題点がよく見えてきます。つまりは「農業の生産性が低い」ということと「農業が多様化していない」ということなのです。まず、生産→流通→加工といったサプライサイドの能力が弱いのです。土地が貧しい、道路が貧弱、加工能力が低いから農作物が加工度の低いまま買い叩かれる、まあ、そういった要素が積み重なっているということです。しかも、作っているものが商品作物だったりして偏っているので、生きていくために必要な食料が賄う体制になっていません。それでも商品作物が高く売れるのなら話は別ですが、商品作物については1970年代に国際カルテルにチャレンジしましたが総じて失敗していて、今では価格が下げ止まりの感があります。乱暴な議論ではありますが、全体としてアフリカ農業の現状はそういうことです。

 私が住んでいたセネガルという国ではピーナッツが特産品でした。植民地時代にフランスがピーナッツの生産地と位置付けて、現地のイスラム宗教界に権限を持たせるかたちでピーナッツ栽培を行いました。ちなみにカシューナッツもよく獲れるようでした(あのカシューという名はギニアビサオという国のカシューという場所に由来しています。)。しかし、今やピーナッツなんてのは補助金をジャブジャブに投じられたアメリカ産なんかが幅を利かせていて、そんなに利益を挙げるような代物でもありません。しかも、ピーナッツは一度栽培すると収穫する際に土ごと引っこ抜いてしまうのですぐに土地がだめになります(私はピーナッツ栽培は砂漠化を促進すると思っています。)。長年ピーナッツ仕様になった農業形態を転換するのはそう楽ではありません。更には生活必需品のコメや砂糖は輸入に依存していて、旧殖民勢力の悪徳フランス人やレバノン人が流通を完全に握っていて高価でした。こういう構図ではいつまで経っても自立できないわけです。

 このテーマは色々と奥が深いので少しずつ書いていきたいと思うのですが、基本的な問題設定として「8割の人が農業に従事したとしても自分たちの作るものでメシを賄えていない」という現実からスタートしていかないと、どんなに美しいアフリカ支援をしても真の自立には一歩も近付かないでしょう。工業化、貿易を通じた自立・・・、援助関係者の書類には美しいお題が並びます。しかし、多分現地の大半の人達の希望は「まずは自分達の実力で食えること」だろうと思います。そこからスタートして考えてみると援助戦略も少し変わるんじゃないかなと期待したくなります。


(ちなみに何度か書きましたが、アフリカというと飢餓を連想する方が多いのですが、太宗においてそれも大いなる間違いです。あれは限られた国の中で生じる悲惨な出来事ではありますが、大半の場所では「生活は大変だけど『飢餓』ということは全くない」というのが現実です。飢餓に苛まれる暗黒の大陸、そういうステレオタイプは間違っている上に私は大嫌いです。)