省庁再編が行われてから6年になります。多くのことが再編されたのですが、大きいものを挙げると(1)自治省、郵政省、総務庁で総務省、(2)建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁で国土交通省、(3)厚生省と労働省で厚生労働省、(4)文部省と科学技術庁で文部科学省、(5)色々とゴチャゴチャ突っ込んで内閣府、まあこんなところでしょう(その他にもあるのですが、まあ大所はこれくらいのはずです。)。


 これがあまり上手く機能してないところがあるんです。私の外務省での経験で言うと、各お役所には国際担当部局というのがあります。外国との窓口となる仕事をやる部局で、財務省とか経済産業省を除くと、えてして省内では「外務省とつるんで外国で勝手な譲歩をしてくる」とお叱りを受け、虐げられている部局です。これが全く再編されてないのです。例えば、ある件について国土交通省と協議をしようとすると、建設部局と運輸部局に話を繋がないと行けないわけです。しかも、そこから返ってくるコメントが180度矛盾していることがあるのです。「いやー、同じ役所の中のお話なんですから、省内で調整していただけないんですかね」と問い掛けても、「いえ、あちらさん(自分の所属しない部局)の話ですから我々は関知しません」と来るわけです。一つの役所として、一つの意思を纏める意図が全くないわけです。これには閉口しました。多分、国際関係だけでなくすべての分野で同じことが起こっているのだと思います。


 そんな中、もう全くダメなのが総務省。全然一体感がありません。自治省、郵政省、総務庁(行政管理とかをやる役所)、全く違うものをくっつけたので一体感がないのはある意味仕方ないのかもしれません。ただ、あの役所に一体感がない大きな理由に、自治省出身者の他への優位意識があるように思います。自治省関係というのは小さい役所ですが、地方自治を所管しているので予算は大きいし、旧内務省系の頂点ということで一流意識が非常に強いところです。多分、自治省出身者は「郵政とか総務とかと一緒にされたくない」と思っているでしょう。今はどうか知りませんが、少なくとも数年前までは新人の一種職員を採用する際にも「総務省」という枠では採用していませんでした。総務省自治枠、総務省郵政枠、総務省総務枠で採用し、その後の人事も全く別のラインで動かされていました。そもそも、総務省では人事等はすべて3本のラインが存在していて統合されていないのです。事実上、事務次官が3人、官房長が3人、人事課長が3人いる状態です。


 ということで、最近、省庁再再編の話が出てきています。まだ、ボンヤリしているのですが報道によれば(1)情報通信省の創設、(2)外交通商省の創設、(3)安全保障についての担当を一元化、みたいなことではなかったかと思います。どれも「うんうん、そうなのよ、そうじゃなきゃいかんのよ。」と思う内容ばかりです。


 (1)は総務省と経済産業省の情報通信部門をくっ付けようということです。経済産業省は早速「情報通信の振興と規制を同じ官庁がするのはおかしい」とか何とか屁理屈をこねて反対していましたが、そんなのは制度設計である程度はカバーできる話です。完全に経済産業省が守旧派に回ったかたちです。これは完全に100年戦争化している案件です。元々は電電公社の時代から通信関係を所管していた郵政省に対して、産業振興という視点から通産省が殴りこみをかけてきたというのが実状です。この不毛な100年戦争が日本の情報通信産業振興にどれくらいプラスになったかというと甚だ疑わしいです。私はあまり情報通信分野は詳しくないのですが、素直に情報通信省を創設するのが良いと思っています。


 (2)は昔、担当していたので思い入れがあります(したがって文章も長いです。)。WTOにしても、FTAにしても、日本は複数の大臣が出て行きます。そして、各人がかなり違うことを言います。今で言うと外相、財務相(関税関係)、経済産業相(鉱工業品)、農水相(農水産物)に加え、時々厚生労働相(人の移動)などなどの大臣が出てきます。これって超カッコ悪いのです。相手はえてして1人です。相手はきっと「本当に日本って纏まりのない縦割りの国だな」と思っていること必定です。しかも、各交渉に行くとそれぞれのお役所が交渉本部みたいなものを設けます。日本は1つの交渉に行くのに、現地で4つも5つも交渉本部を作るのですね。本来、国際貿易交渉に出て行く御仁は1人で十分です。他の国は大体、1人の大臣が出てくる体制を整備しています。日本でもそうするべきでしょう。

 ではどういう体制が良いのかということですが、まず重要なポイントは農林水産省は経済産業省を信用していないということです。経済産業省が主導権を握るような国際貿易交渉体制だと、農林水産省は「経済産業省の所管物資のために農林水産業が犠牲にされる」という不信感を持つはずです。これでは上手くいきません。経済産業省もこのあたりは分かっているので、彼らは「内閣府に通商交渉本部を設け、専任大臣を置きましょう。協力します。」みたいなことを言います。まあ、この背景には経済産業省出身者がこの通商交渉本部の次官ポストを取りたいという意図があるのですが、発想そのものは悪くありません。すべての役所から、国際貿易交渉関連部門を完全に引っぺがして内閣府に置く、そして担当大臣を置く、これを機能させるのはなかなか難しいですがまあやってみる価値はあるような気がします。屋上屋になる懸念が払拭されるのであれば、これがベストだと思います。

 外交通商省というのは、上手く持っていけば機能しないことはないと思います。WTOやFTAは貴重な外交のツールですから、外交一元化の観点からは望ましいものです。特にWTOではジュネーブ駐在の大使が相当な力を持っていますから、指揮命令系統を統一する観点からも外交通商省のアイデアは悪くありません。外務省に外庁として「通商交渉本部」みたいなものを設けて、各役所の国際貿易交渉関連部門の権限をすべてそこに移して、その本部長に大臣を据えればいいわけです。組織上は外相の下に通商交渉本部長が来ますが、国務大臣としては同格ということにすればいいのです(内閣府の外庁としての防衛庁長官が可能だったわけですから、これは若干の制度改正により不可能ではないと思います。)。ただ、これだけですと外務省だけが1人儲けモノの世界になりますから上手く機能しないでしょう。仮に外交通商省を成功させようと思うのなら、通商交渉本部の次官は経済産業省出身者、事務方ナンバー2は農林水産省出身者、事務方ナンバー3は財務省出身者、くらいは提案しないとダメですね。それくらいの器量が外務省にないのなら、外交通商省は絶対に成立しないでしょう。
 
 ここまで見て分かるように、省庁再再編として報道されているものは「経済産業省から権限を引っぺがしてしまう」ことに繋がるものが多いのです。これまであちこちに口を出して関与してきた経済産業省が「ええい、おまえ達ウザい!」と言われているような気もします。今の経済産業省で本当に有意義な仕事をしているのは外庁です。資源エネルギー庁、中小企業庁、保安院、どれもこれも大切な仕事をしています。その一方で本体の方はちょっと寂しい感じがします。そんな同省から情報通信とか通商交渉を引っぺがすと更に同省本体は寂しくなります。ただ、彼らは一流意識が強いので、そのあたりを上手くポストで遇してあげながら進めていかないと、省庁再再編の最大の抵抗者は経済産業省になってしまうでしょう。


 (3)の安全保障部門の一元化ですが、これは外務省と防衛省の対立が根元にあります。もう古い話になりますが、日米の「ガイドライン」(有事における後方支援とか)とか普天間の辺野古移転を纏めたのは事実上外務省でした。逆に最近の米軍再編や沖縄の基地移転交渉を纏め上げたのは防衛庁でした。海兵隊のグアム移転に関する交渉は防衛庁長官がやっていました。今、進められている集団的自衛権に関する懇談会は外務省色が非常に強いです。では、これらの事案それぞれについて「何故これが外務省担当で、これが防衛省担当なのか」ということになると、答えは非常に簡単なのです。「それは偶然の産物である」ということです。その時の人間関係とか、担当している各省庁の幹部のパーソナリティとか、まあそういうことが決定的な要素なのです。米軍再編に関する諸交渉については防衛省がかなり主導的な役割を果たしているのですが、それは今の守屋防衛次官が、10年前のガイドライン交渉の際、担当幹部として外務省に徹底的に干されたことへの恨みがあって外務省を外したわけです。そういう偶然性で主導するアクターが異なるというのはいかんと思うんですよね。これはあまり名案がないのですが、どちらかというと防衛省にもう少し安全保障関係の事案をシフトしていくことが主眼になるような気がします。私もそれでいいと思います。この話は色々機微なことがあって、それを私がある程度知っているのでこれ以上書くことは避けます。


 省庁再再編、絶対に必要だと思います。しかし、それにはとてつもない力とエネルギーが必要です。政策通といわれた橋本首相が不退転の決意で取り組んでも、やっぱり道半ばで終わったものが多かったのです。政治の側が相当に理論武装して、火だるまになる気概を持ってやらないと省庁再再編は端緒にすらつけないでしょう。