パスポートを整理していたら、イエローカードが出てきました。黄熱病対策のためのワクチンを打ちましたよという証明書です。「1997年5月フランス・リール市にて」となっています。そして、このワクチンは10年が期限となっていますので、公的には今月で私の体内にあるワクチンの効果は無くなってしまうことになります。黄熱病といえば野口英世です。ガーナには野口英世の偉業を称えて黄熱病(だけではなかったと思いますが)の研究施設があるそうです。私がいたセネガル、ガーナを含む西アフリカ地域では黄熱病ワクチン接種が望ましいとされていました(たしか義務にはなっていなかったはず。)。



 黄熱病のワクチンは生ワクチンなので体質に合わない人は全く合わないと言われます。医学の世界にまったく疎い私には生ワクチンと普通のワクチンは何が違うのかさっぱり分かりませんでしたが、何はともあれ私の身体には生ワクチンは全く合いませんでした。打ったその晩から2日間、完全に寝込んでしまいました。それはそれは気分が悪くなったのを覚えています。


 アフリカに行く際には黄熱病、肝炎、髄膜炎、破傷風、狂犬病などかなりのワクチンを打ちました。アフリカというとエイズを連想する方が多いでしょうが、それと同じくらい(国によってはそれ以上に)深刻なのは髄膜炎じゃないかなと感じました。髄膜炎が一旦流行ると万単位で人が亡くなっていきます。日本だと新聞の隅に「アフリカの●●で髄膜炎が蔓延」みたいなちっちゃな記事にしかなりませんが、それはそれは髄膜炎というのは怖い病気です。


 あとはマラリアですね。私はマラリアに罹患したことがあるのですが、あれは辛いです。初期段階で見つけたから良かったものの、あれは放っておくと肝臓に入って肝硬変、激性肝炎になります。最初は熱が上がったり、下がったりで「風邪か?」と思うのですが、そうやっているうちに手遅れになります。危うく命を落としそうになった人を知っているだけにマラリアの怖さが身に沁みます。私はかなり初期段階で見つけることができ、巨大な針で筋肉注射を太ももにブスッと打たれました。まあ、幸運にもすぐに治りましたが、もう献血も骨髄バンクドナー登録も断られる身になってしまっています。マラリアには治療薬はあるが、予防薬は無く、予防薬を発明できたらノーベル医学賞だと言われています。罹患経験者としては相当に期待しています。


 ちなみにどの病気もえてして「水」経由で感染経路が拡大することが多いです。水の少ない地域に行くと、衛生面で「どうかな?」と思う水を飲料に供したり、逆に雨が降った後の排水システムが整備されていないのですぐに水溜りができてボウフラの住処になっていたりします。清潔な水を供給することが如何に大切で、しかも難しいか、そして、清潔な水を提供することでどれだけの人が助かるか、「今時水道水を飲んでいる人なんかいないだろう?」とのたまった某大臣に理解できるかなと思ったりします。日本は援助の一つの柱として清潔な水の供給を上げています。頭では理解していつつも、目で見るまではその真の重要性は理解できんだろうな、援助政策担当者はしっかり現場を見ているだろうか?なんてことを思います。


 日本だと衛生面で環境が整っており、しかも予防接種のシステムもかなり整備されています。日本にいる時は気付かなかったのですが、アフリカで住んでみると「如何に予防接種が大切なのか」ということを肌で感じます。特に小児麻痺関係だと思うのですが、小さい頃に小児麻痺に罹患したために体の一部が不自然なかたちに曲がった状態の方がかなり多かったのが衝撃的でした。予防接種1本によってかくも違うものかと感じたものです。


 そんな中、黄熱病のワクチンの効力がなくなってしまいました。多分、破傷風、髄膜炎、肝炎、狂犬病のワクチンももう効き目は終わっているでしょう。まあ、今すぐ打ち直すことは全然考えていませんけど・・・。