日本版NSC(安全保障会議)について、骨格ができあがりました。そういう組織ができること自体はとても良いことだと思います。ともすれば縦割り行政の弊害をモロに被ってしまいかねない安全保障の話を実質的に内閣官房で統括するということですから、それはそれで評価していいのでしょう。


 ただ、石破元防衛庁長官(何故か私のPCでは彼のフルネームを打つと「石橋ゲル」になります。ちょっと気持ち悪いのですが・・・)がいみじくも指摘していたのですが、NSCを作るのであれば秘密保全できちんと制度を作っておかないとダメなのです。NSCに必要な情報がきちんと集まって、そして、それに基づいて安全保障の政策判断をするためには各省庁からNSCに出す情報がきちんと秘密として保全されることが確保されることが必要です。漏れ聞くところによれば、今回のNSCの制度設計では法的に掛かる縛りは国家公務員法の守秘義務だということです。実状を知れば、そのあたりの制度設計がまだ不十分だということは明らかです。


 まず、今の法制度上、秘密というのがどういう分類になっているかを考えてみます。大まかに言って以下の3つに分かれます。

● 国家公務員法:違反は懲役1年以下
● 自衛隊法(防衛秘密):違反は懲役5年以下
● 日米相互防衛援助協定(特別防衛秘密):違反は懲役10年以下


 その他にも防衛庁には省秘というカテゴリーがあって、国家公務員法と自衛隊法の間くらいの位置付けのようです。いずれにしても、法律上は上記のような感じになっています。あとは各省庁の内規で懲戒処分の対象かどうかということが定められているだけです。したがって、私が外務省在住時に知りえた秘密をポロポロ漏らした場合はその制限は国家公務員法によるものだろうと思います。結構、罰則は軽いのです。最近、外務省OBがマスコミやその他の媒体を使って秘密に該当する話を恥ずかしげもなくポロポロと書いてはお金儲けをしていますが、あれとて罰則はたかがしれているわけです(現役の方はそれ以外に役所内部での懲戒処分があるのでもっと厳しいですが)。


 もう少し深く見ていくと、より現実的な世界が見えてきます。上記のそれぞれのカテゴリーについてある程度簡略化して見ていくと問題点が明らかになります。

● 国家公務員法による守秘義務:「職務上知ることのできた秘密」を漏らしてはいけないことになっています。しかし、この「職務上知ることのできた秘密」については何が該当するかはアプリオリに決まっているわけではありません。最高裁の判決や政府の公式見解では「一般に知られてない事実であって(非公知性)、他に知られていないことについて相当の利益を有するもの(秘匿の必要性)」の2件を要件に掲げています。しかし、これを判断するのは最終的に司法の場になります。
● 防衛秘密:これは防衛大臣が指定します。「防衛上、特に秘匿する必要がある」と判断される情報を指定します。これは指定という行為が介在するので、何が防衛秘密かはアプリオリに分かります。
● 特別防衛秘密:これは日米相互防衛援助協定という条約に基づいて設けられたカテゴリーですが、これは同協定で日本がもらう装備品等の情報が該当します。例としてはイージス艦の装備みたいなもので、最近中国人妻への漏洩が問題になったのはこのカテゴリーです。何が特別防衛秘密に当たるかは協定に基づく国内法で定められています。


 上記で分かるように、国家公務員法は司法まで行かないと何が秘密かは分からない、防衛秘密はある程度防衛省としての自発的な判断があって防衛秘密に指定され、特別防衛秘密は指定行為も何もなく日米で「こういう装備品に関する情報は特別防衛秘密に該当する」と決めたものがそのまま該当します。


 幾つか問題があります。まず、国家公務員法による守秘義務ですがこの規定が機能するかと聞かれる甚だ疑問です。有名なのは1970年代に「知る権利」との関係で問題になった西山事件ですが、あれは西山太吉という記者が外務省の女性職員と情を通じて沖縄返還に関する情報を取ったことで起訴されました。しかし、あれは当時の政権が情報漏洩について断固たる決意で臨んだために起訴が可能になったものです。冷静に考えれば分かりますが、国家公務員法の規定のように「何が秘密か」が明確に規定されていないケースでは、情報漏洩で起訴すれば司法の場でその情報が秘密に該当するかどうかを争わなくてはなりません。その中で漏らした情報の真偽についてまで踏み込むこともあるでしょう。そういうリスクを犯してまで行政側が起訴するかというと、普通に考えればやらないでしょう。情報の存在、真偽も含めて「無視する」という選択肢しかないわけです。上記に書いたように今、外務省OBがあちこちで秘密に該当するような情報をポロポロと漏らしていますが、それは「この話を漏らしても外務省側が訴えてくる可能性はない。何故なら公の場で情報の真偽を争うことはしないからだ。」とたかを括っているからなのです(そして、その読みは正しいのです。)。


 逆に防衛秘密は防衛大臣による指定行為がありますし、特別防衛秘密は国内法で何が該当するかが明確になっていますから、国家公務員法ほどの曖昧さはありません。これをポロポロ漏らしていると有無を言わさずお縄になります。


 さて、こういう中でNSCにどういう問題が生じるか・・・と思って書き連ねようと思ったのですが、今宵は力尽きてしまいました。次回に回します。