「美しい国」という言葉が世間を賑わせています。一国の宰相が国の目指す方向を示すことはとても良いことだと思います。


 ただ、この言葉、よく意味が分からないのです。そういう批判は既に多くのところで出ているので私が繰り返すことはしませんが、美しい国とは何なのかは私にもよく分かりません。安倍総理の言いたいことは「戦後民主主義では色々な意味で日本を取り巻く規律が緩んでしまったので、これをもう一度引き締める。特に外交と教育の分野で。」なのだろうと思います。


 私も過度の個人主義(というか「責任なき自由」)は嫌いです。日本をダメにしているのはこの(意図的に)誤解された個人主義にあるだろうと感じます。いつの頃からか、日本では「個人主義」が「何をしても干渉されない」、「組織上の上下関係を無視しても良い」と同義になってしまいました。その点を是正していくことには共感を覚えます。逆に「日本は先の戦争ではちっとも悪くなかった」というふうに歴史解釈を持っていこうとする動きはとても受け入れがたいです。まあ、この点については、今の総理はおじいさんの呪縛が強い人だなという印象を持っていることだけに留めたいと思います。


 何はともあれ「美しい国」、もう少し具体的なイメージを得たいと思ったので英語訳を調べてみました。日本語というのは主語を省略することができたり、曖昧な意味を持つ用語、言い回しがあるのですが、こういうものはえてして外国語にしてみるとその趣旨が逆に良く見えてくることがあります。外国語では主語は明示しなくてはなりません。無理に受動態の文章にするととてもおかしくなることがあります。


 ということで、安倍総理のスピーチ で「美しい国」はどうなっているのかを調べてみました・・・、「a beautiful country」・・・、目を疑いました。そのまま直訳するとたしかに「a beautiful country」ではありますが、これではその趣旨は聞く相手には全く通じないのではないかと気になってしまいます(しかも、このスピーチは英語で行われています。これを聞いたNATOのおじさん達に感想を聞いてみたいところです。)。


 どう考えても、景色とか文化財とかが美しい以上の意味を見出すことは難しいような気がします。私の外国語能力不足かと思って、イギリス人とフランス人(フランス語では「un beau pays」)にそれぞれの言葉で「この言葉から何をイメージするか」と質問したら、共通して返ってきたのは「日本の風景が綺麗だということなんじゃないの?」という返事でした。そうだろうと思います。「『honourable』とかの方がいいんじゃないの?」と私は思うのですが、これでは意を尽くせてないのかね、どうなのかねと悩みます。


 冠詞が「a」になっているのも気になります。「美しい国」という言葉では日本の独自性を訴えたかったと理解してみるのですが、これだとありふれた感じが漂います。定冠詞でもちょっとピンと来ないので無冠詞で書いてみるというのがいいと思います。


 「いや、もしかしたら安倍総理の言いたいことはそもそも『a beautiful country』なのだ」という意地の悪い指摘はしませんけど、それにしても「美しい国」、何を指しているのかが更に謎になってきました。