お役人の退職後の再就職について「人材バンク」という構想が出てきています。基本的に良いことなのではないかと思います。


 まあ、そもそも「天下り」の定義自体が難しいのです。原則として、退職前5年間担当した業務分野には、退職後2年は天下っちゃいかんということは決まっていますが、それ以外についてはあまりガチッとしたルールがありません。しかも、省庁による斡旋、仲介がある場合は表に出てきますが、そうでない場合はあまり表にも出てきません。しかし、「省庁による斡旋、仲介」というのが何なのかというのもよく分かりません。日本社会に特有の「阿吽の呼吸」、「暗黙の了解」はどうなのかというと、「省庁による斡旋、仲介」に該当しないということになっているのではないかと思います。今回の政府与党案では「省庁による押し付け的斡旋は禁止」と言っていますが、「表面上は押し付け的でないが、日本的阿吽の呼吸での事実上の押し付け的斡旋」はどうなるのかなと思っています。


 まあ、人材バンクの件は既にマスコミなどで取り上げられているので、詳細に深く入っていくことはしません。私が思うのは、そもそも天下りする人はその企業について本当に必要な人材なのかというそもそも論です。


 中央官庁のお役人は優秀な人が多々います。中央官庁での勤務条件たるや相当に悪いですが、その中でも頑張っている方は適正に評価されなくてはなりません。しかし、中央官庁でのスキルというのは非常に特殊な技能です。官庁の中で実力を評価されていくために必要な能力というのは(説明するのは難しいですが)とてもとても特殊な能力なのです。一般社会においてすぐに通用するケースはあまりないと言っていいでしょう。多分受け入れる企業の側も、天下ってくる人のスキルにホンネではあまり期待していないのではないでしょうか。この超オタクな特殊技能を、あたかも社会一般で通用する技能に擬制しているところで、現在の天下り議論は上滑り感があります。「民間企業も優秀な官僚のスキルを是非活用したいと思うから・・・」とか言っていますが、私は「8割方嘘でしょ、それって」と思っています。しかも、始末に終えないのは中央官庁のお役人はプライドが高く「自分達はどの社会に行っても一定程度通用する」と思っていることです。本当は、40年特殊技能の社会にいた人間は仮にその世界でどんなに優秀であっても社会一般では通用しないことが多いはずなのですが。


 しかも、天下ってくる人の大半は官庁で管理職を経験しています。簡単に言うと、民間企業と接するときは床の間を背に座ることになれた人ばかりです。私が企業人だと仮定とすると「床の間を背に座ることを当然だと思っている人がやってくる」と聞いただけで嫌になります。そういう人にはお金を稼ぐことは難しいような気がします。


 結局、天下りに期待するのは「親元との繋がり」と「役所の中の情報」になるわけです。一般論として、「床の間を背に座ることに慣れた」「(天下った企業では必ずしも使えない)特殊技能を持った人」を迎えることのメリットはそれくらいしかないと思うのです。しかし、今回の改革で厳格な行為規制(親元への口利き禁止)が課せられるそうです。本当にこれが実現するのであれば、相当なインパクトがあるでしょう。また、親元の情報といっても、本来であれば、役所にいた時代に知りえた秘密に該当する話を外にペラペラ話したら国家公務員法の守秘義務に違反します。秘密に該当しないような話であれば、企業側が自分達で努力して収集すればいい話です。ちょっと公式論過ぎるかもしれませんが、原則としてはそういうことだと思います。


 だから、省庁による押し付け的斡旋を排したかたちでの独立した人材バンク構想は良いアイデアだと思います。人材をリストアップしておいて、後はそれらの人材を欲しい方が自由に選んでください、ただ、口利きはなしですよということで良いのではないでしょうか。その際に重要なのは、押し付け的ではないけども省庁側から企業側に対して「人材バンクにうちから○名出しているんですよね、イヒヒヒヒ」という純粋には押し付けと言えるかどうか疑問の「阿吽の呼吸」ゾーンまでを潰すことができるかです。


 私はこの制度の結果として、「(人材バンクなどに登録することなく)自分で再就職先を探してくる」というのが増えるような気がします。企業側も天下りに期待しなくなるかもしれません。その場合にも行為規制は掛かりますから、自分で再就職先を探す場合はより自分の実力が問われるようになるでしょう。特に自分の実力を自負している人ほど、「そこまでやって就職の面倒をみてくれなくてもいい」と自分の実力に賭けてみたくなるような気がします。


 もっと言うと、今、盛り上がっていますが意外に人材バンクは流行らないと思います。天下りというのはちょっと闇の世界で押し込むから都合がいいのであって、完全に透明な世界になると意義が下がるでしょう。各人が自分の実力で再就職先を探す傾向が定着するという意味において、人材バンクが流行らないのであればそれはそれで良いことなのではないかと思うわけです。


 制度の詳細に入ることなく、一般論で書きました。特殊法人や公益法人は話が複雑になるのであえて省略しましたが、基本的な考え方は同じです。一種職員に対する早期退職勧告制度(エラくなるにつれてポストが減るので間引かれる制度)がある現実もあえて考慮しませんでした。したがって、議論としては不十分ですが、今思うことを雑駁に書き連ねました。