海洋権益ということがここ数年盛り上がってきています。日本と排他的経済水域(EEZ)や大陸棚を接しているのは、ロシア、北朝鮮(接していたかどうか記憶が微妙)、韓国、中国、台湾、フィリピン、アメリカ(北マリアナ諸島)くらいだったと思いますが、海洋権益ということで盛り上がるのは中国、韓国とのEEZ、大陸棚関連でしょう。


(この件は昔、外務省でちょこっとだけ担当したことがあって機微な内容の書類を見ているので、国家公務員法の秘密漏洩に当たらないように留意したいと思います。最近は外務省を辞めた職員がポンポンと秘密を本にしたり、テレビで話したりしているのですが、そういう人品卑しい人間に成り下がってはならないと思っています。)


 今、与野党で海洋基本法みたいな法律を作ろうとしています。海洋における日本の権利をきちんと守るために、縦割り行政を辞めて日本全体としてやっていく体制を整えようとするそうです。その内容はまだ外部に出ていないので何とも言えませんが、まあ、良いことなんでしょう。色々なことを思います。日本のEEZや大陸棚に他国が入って開発してきた時どうするのか、それを排除するのは自衛隊か海上保安庁か、排除しようとした際に相手の国の軍が出てきたら、その時は警備行動や防衛行動を発令するのか、そんなことまでを考えなくてはならないと思います。また、核搭載艦の領海内通過を禁じる規定を設けるのか、宗谷、津軽、対馬等5海峡を国際海峡とするのか(http://ameblo.jp/rintaro-o/entry-10018876690.html )なんていうテーマもこれを機会に議論してほしいです。ただ、今回はもうちょっと基本に立ち戻って考えたいと思います。


 今、海洋基本法という法律を検討している方々の中に、「今、日本では法律で排他的経済水域や大陸棚はどう規定されているか」を知っている方がどの程度いるでしょうか。多分、あまりいないと思います。渋いテーマではありますが、日本の主権の及ぶ範囲を規定する重要な法律で、日本の海洋権益を考える時に基本になるので少し掘り下げてみます。


<排他的経済水域及び大陸棚に関する法律(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H08/H08HO074.html )(読みにくいので正確さを少し捨てて若干噛み砕いて書いています。正確な表現を知りたい方は上記のサイトで見てください。)>
● 排他的経済水域(海洋資源に対する主権的権利を保持できる水域)
-- 排他的経済水域は、我が国の基線から、いずれの点をとっても我が国の基線上の最も近い点からの距離が二百海里である線までの海域並びにその海底及びその下とする。
-- 我が国の二百海里線と相手国の二百海里線が重なり合うときは時は、中間線(双方の基線からの最短距離が等距離になる線)までの海域等を排他的経済水域とする。
-- ただし、我が国と外国との間で別途合意する線があるときはその線までの海域等を排他的経済水域とする。
● 大陸棚(地下にある資源に対する主権的権利を保持できる地域)
-- 大陸棚は、我が国の基線から、いずれの点をとっても我が国の基線上の最も近い点からの距離が二百海里である線までの海域の海底及びその下とする。
-- 我が国の二百海里線と相手国の二百海里線が重なり合うときは時は、中間線(双方の基線からの最短距離が等距離になる線)までの海域の海底及びその下を大陸棚とする。
-- ただし、我が国と外国との間で合意した中間線に代わる線があるときはその線までの海域の海底及びその下を大陸棚とする。
-- 相手国と二百海里線が重なり合わない場合は、我が国の二百海里線の外側に接する海域であって、国連海洋法条約第七十六条に定めるところに従い政令で定めるもの(
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/houritu/tairiku.gif


 まあ、微妙な書き方をしていますが、とどのところEEZと大陸棚の規定振りはほぼ同じです。大陸棚については、国連海洋法条約で二百海里以遠についても主張できるようになっているので、その部分があえて違うといえば違います。


 つまりは、中国や韓国のように大陸棚が重なる地域については、本来権原として中間線まで有しているということです。ただ、相手国と合意した線がある時はその線までの権原となります。もう少し具体的に中国、韓国について見ていきます。EEZについては中国、韓国とも確定していません。今、鋭意交渉しているようです。ただ、両国とは漁業協定があるのでとりあえずは両国関係を揺るがすほどにこじれることはありません(ただ、韓国との間では共同管理している地域がたくさんあるのですが、ここで韓国漁船がムチャクチャやっています。事実上、韓国のEEZに近い状態になっていることをとても懸念しています。漁業協定は両国の合意ですから厳しく言うことは言わなくてはいけません。)。


 大陸棚については、日韓では大陸棚を確定した条約があります。これが法律でいうところの「我が国と外国との間で合意した中間線に代わる線」になります。ただ、日韓大陸棚条約が締結された昭和40年代後半から50年代時は国際法のメインストリームは「自然延長論(自国の沿岸から地理的に延長している大陸棚に権利を主張できるという論理)」をベースに作られています。その結果、かなり韓国に有利な線引きになっています。今は二百海里線が重なってる時はまずは中間線をベースに調整していくという論理がメインストリームになっています。今、交渉すれば全く別の結果になるはずです。あと10年くらいすれば条約の見直しの時期が来るのではなかったかと思いますが、一旦日韓で合意して、それを国内法でも認めたかたちになってるので動かすのは相当に苦しいでしょう。今の線を動かそうとすると韓国は感情的に抵抗するでしょう。まあ、韓国が持っている大陸棚はあまり資源も出ないことが判明したのですが。


 残る大きなテーマは日中の大陸棚だろうと思います。今は「共同開発」という話をしているようですが、もう少し立ち戻って考えてみます。中国は実は「自然延長論」を基礎に沖縄近くまでがすべて中国の大陸棚なのだと主張しています。それは今の国際法のメインストリームの考え方ではありませんが、ともかくそういう主張をしているわけです。では、日本はどういうふうになっているかというと、上記の法律を読み直してみると、基本的には中間線、ただ合意がある時は別、ということなのですから、日本が国内法で主張しているのは「中間線まで」ということになります。ここにお互いの主張の非対称性があります。相手は日本領土(沖縄)ギリギリまでがうちの大陸棚だと言い、日本は中国との中間線までがうちの大陸棚だと主張するということです。日本が最後の落としどころを「中間線」で合意したいということであれば、日本は自分の主張を100点満点取らなくてはならないということです、中国は譲歩した結果が「中間線」になるわけです。どっちが強い立場にあるかは明白です。これは負け筋の議論です。しかも、日本側の基線は島嶼部、中国側の基線は大陸ですから、現在の国際法のすメインストリーム的議論に基づいて中間線をベースに議論しても、日本が獲得できる大陸棚の範囲はかなり押し込まれるのです(本来、現在の国際法のメインストリームの論理に基づいて大陸棚を確定したら、おそらく今議論になっている春暁ガス田などはすべて中国に持っていかれるでしょう。だから大陸棚の境界確定でガチンコをすることなく、共同開発に持ち込むことが得策なのでしょう。その意味では日本外交はよく頑張っています。)。


(そもそも論ですが、今の日本の法律の規定を前提にすると、中間線以上のEEZや大陸棚を確保することは無理だと思うわけです。基本が中間線と大原則が掲げられており、ただし別途合意すればその時はその線をベースにするということですが、こういう姿勢である限り、EEZ、大陸棚確定交渉で中間線以上を主張することが難しいような気がします。法律でいう別途合意とは「日本が中間線よりも譲歩した時」の合意に読めてしまうのですが・・・。)


 少なくとも、「中間線が境である」ということについて中国と合意がない状況では、地理的に日本は200海里まで大陸棚の主権及び主権的権利を主張することができるという法律の規定にしておくことがいいような気がするのです(上海近くまで主張することになる)。そういう法律に変えること自体が中国への良い圧力になるような気がします。中国はよく日本の国内法を勉強していますから、今は「どうせ中間線までしか主張してこないし、これない。中間線以上を主張する権限すらない。」とたかを括っています。これを変えさせなくてはいけません。今の法律の規定は何処か中国や韓国への配慮が覗いているような気がしてなりません。気のせいでしょうか。


 ちなみに、日中中間線付近のガス田は埋蔵量が少ないとされています。だからといって中国に譲っていいということでは決してありませんが、日本は本当に自分の資源として開発する意図を持っているのかなと思います。あの地域からガスパイプラインを引くことまでが念頭に置かれているでしょうか。それとも「日本がその主権下で掘るけど中国が買ってね」という世界なのでしょうか。後者だとすると交渉ポジションはかなり弱いですね。


 色々書きましたけどが、領土は国の大本です。これをおろそかにする政治家は政治家ではありません。この件は多くの人に関心を持ってもらって頑張ってもらいたいと思います。