「The Great Game」という本があります。Peter Hopkirkという人が書いた本です(原書日本語 )。


 19世紀の中央アジア、特にアフガニスタンをめぐる英露の争いを描いた本です。スリルに溢れていて、そんじょそこらの小説など足元にも及びません。面白い本なのでお薦めします。私は中央アジアから南アジアにはひとかたならぬ思い入れがあるのですが、そのベースとなった本でもあります。自宅にはタリバーン仕様のターバンとか、カルザイ・アフガニスタン大統領の着ていたファッションとか、得体の知れないものがたくさんあります。いつの日か使ってやろうと思っています。


 この本を読んでいると、現代においても妥当する部分があるように思えてなりません。イギリスは南下するロシアに対抗しようとして、アフガニスタンを支配下に収めようとしますが、イギリスはその都度コテンパンにやられてしまいます。騙されたり、脅されたりして、イギリス軍は撤退させられます。ロシア人も結構ヒドい目に遭っています。


 その後、英露は協定でアフガニスタンは緩衝国となります。アフガニスタンの地図をよく見てみると分かるのですが北東部が長く延びて中国と国境を接しています。この地域はワハン回廊と言われ、険しい山々が聳え立つ地域です。これは何を意味しているかというと英領インド(の一部を構成していたパキスタン)とロシア帝国(の支配下にあったタジキスタン)が国境を接することがないようにしたわけです。地図だけを見るとよく分からないのですが、細い細い回廊(幅にして数十キロ程度)には深い意味があるわけです。


http://www.lib.utexas.edu/maps/middle_east_and_asia/afghanistan_rel_2003.jpg  


 アフガニスタンに住む人達は誇り高き民族です。外敵を排除してきた歴史があります。外部からの侵略といったことに対する拒否感はそれはそれは強いです。この本を読んでいると、そういう歴史を非常に明快に感じ取ることができます。狡猾なアフガニスタン人に騙され、異国の地で命を落とす(時に愚かな)イギリス人のストーリーは一筋縄でいかないこの地域の難しさを物語っています。


 振り返って、今のアフガニスタン、決して上手くいっていません。国際社会による治安回復に向けた取り組みも上手くはいっていません。最近は、元々あの国に存在しない文化だった自爆テロまでが起きるようになっています。悲観論だけをぶつのは適当ではないのでしょうが、今のアフガニスタン情勢を見ていると「もうちょっと歴史に学べなかったのか?」という思いがあります。どうやっていれば、どう良くなっていたのかを想像することは私の能力を超えますが、一つだけ確実なのは「アフガニスタンに対するアプローチを策定している人間はあの国の歴史を学んだ人間ではない。」ということです。


 まあ、この「The Great Game」、繰り返しになりますがそこらへんの小説よりは絶対に面白いので薦めます。この地域に関し、もう少し読み応えのある包括的なストーリーに関心のある方には、以下の本を薦めておきます(私も少しずつ読み進んでいる本です)。


「tournament of shadows」