「FTAを活用する」というと、日本が多くの国と自由貿易協定を締結して、外国から安く物を輸入することだと思うでしょう。ちょっと違います。私は日本のやるFTAには非常に悲観的です。総じて市場の開放度が低いFTAが多いため、真の意味で日本経済の浮揚には役立たないような気がしてならないのです。こちらが相手の望む市場開放をしなければ、相手もこちらの望む市場開放はしないでしょう。その結果出来上がるのは縮小均衡型のFTAです(本当はすべての貿易障壁を撤廃することになっているので縮小均衡なんてできるはずがないのですが。)。


 最近スイスとのFTA交渉を開始する話がありました。これはとても意味合いの深いことです。スイスは農業保護のレベルがとても高く、一部の産品を除いて競争力がありません。スイスとFTAをやるというのは、多分「(お互いに開放するのが辛い)農業を外してFTAをやりましょう」という意思の現われです。日本もそんなバカらしいことをするようになったかと嘆かわしくなります。


 そういうことに期待するよりも、私が思うのは「他国が締結したFTAを活用してみる」という発想です。アメリカやEUは色々な途上国とFTAや特恵制度を設けています。これを使って貿易摩擦(ちょっと古い言葉ですが)を解消したり、途上国への投資促進、途上国の開発促進に使えないかと考えます。日本ではFTAというとまだ自分のFTAだけで手一杯ですが、もうちょっとだけ思考を発展させて、他人のやっていることの尻馬に乗って儲けてやろうというところまで進んでほしいと思います。


 例えば、アメリカは中東和平のアメとしてヨルダンとFTAを締結しています。あと、立憲君主制に移行して中東民主化のモデル化しつつあるバーレーンに対するご褒美としてFTAを締結しています。これらの国からアメリカに輸出するのは無税になります。日本からアメリカに直接輸出したり、アメリカへの直接投資による現地生産に困難があるモノについては、こういう国での生産を考えることはできないかと思うんですね。現地の人件費は日本やアメリカと比しても低いですから、そういうメリットもあります。


 といっても、こういう構想を実現するのはすぐには無理です。順序というものがあります。陳腐ではありますが以下のようなことだと思います。

● 先進国とFTAを締結している途上国に目を付ける。
● その国に投資をして、輸出基地とすることに前向きな企業を探す。
● その国から技術者を招聘して、当該企業の求めるモノ作りのスタイル、品質への高い要求を頭で、身体で理解してもらう(ODAを使う)。
● 国に帰った後、日本で研修を受けた人達が中心となって企業運営をしていく(技術移転)。
● 当該途上国で生産したと言えるくらいの原産地規則を満たす現地生産をして輸出に繋げる。現地の人件費が安いこと、FTAで無税であることを勘案すれば相当に競争力があるはず。


 自分で書いてみて「そんなに真新しいことはないかも・・・」と思いましたが、これを一貫したプロジェクトとしてやれれば、日本企業にとっても新しいフロンティアが広がりますし、当該途上国の経済発展にも大きく貢献します。成功すれば単なるODAの100倍喜ばれるでしょう。数年で実現することは難しいかもしれませんが、日本を母体とする企業(現地法人化)が主導するメード・イン・ヨルダンの車とか、メード・イン・バーレーンの半導体とかを先進国に輸出していくようなことが将来的にあってもいいと思うのです。まあ、そのためには経済産業省と外務省が協力することが必要ですけど、目立ちたがりで手柄の独り占めばかりを考える経済産業省と、新しいことをやるのにとても後ろ向きでいつもバスに乗り遅れる外務省とですからね、全然肌が合わないのです。


 もう一つ活用できると思うのは、後発開発途上国に対する特恵制度です。先進国は後発開発途上国からの輸入を無税にしています。これも同じような発想で使うことができると思います。カンボジアで、バングラデシュで、アフリカでモノを作れば(原産地規則を満たす限り)先進国は無税で輸入します。原理は基本的に上記でFTAについて書いたことと同じですので繰り返しません。


(ちなみに、今日本が特恵制度で輸入しているものの中で有名なのはナイル・パーチです。ナイル川上流に棲む白身の魚です。ウガンダあたりから輸入しているのではなかったかと記憶しています。白身魚のフライはナイル・パーチが多いはずです。ナイル・パーチはビクトリア湖でたくさん採れるのですが、10年強前にルワンダで大虐殺があって死体が大量にビクトリア湖に流れ込んだことがありました。つまりは・・・、これ以上はあまり心地の良い話ではないので止めときます。ただ、私はフィレオ・フィッシュ系は好きですけどね。)


 他の先進国と途上国が締結したFTAや、先進国が提供している後発開発途上国への特恵制度を狡猾に使って儲ける発想があってもいいんじゃないかと最近強く思います。日本政府が経済界と組んで、それを戦略的に推進していってほしいですね。特に日本自体が締結するFTAがあまり期待できないので、日本のFTA政策は、他国が締結したFTAを上手く使うところまで広がっていく方がいいと思うのです。そちらの方が手っ取り早いですし。